遺体や火葬骨を葬るのに用いる土器,陶器。口広く丈高い器を用いたものを甕棺と呼び,頸すぼまりで胴の張ったものを壺棺(つぼかん)と呼び分けることもある。なお平面円形の一般容器の形から離れ,本来の棺として作ったものは陶棺と呼び,甕棺とは区別する。火葬骨を収納した土器は蔵骨器,骨蔵器,骨壺などと呼ばれる方が多い。日常の容器としての甕,壺を転用して子どもの遺体を葬ること(小児甕棺)は,それを家近くなど生活の場に葬ることが多いこととともに,先史時代以来,世界の各地で広く認められ,日本では縄文時代から盛んである。子どもを葬るため,特別の容器を作った珍しい実例としては,長野・山梨・神奈川県下の土偶形容器(弥生時代中期初頭)があげられる。女性の姿をかたどった土器に新生児の骨や歯が収納されている。成人を屈曲した姿勢で日常用の大型土器に葬ることは,小児甕棺ほど一般的ではない。しかし,西アジア,ヨーロッパ,中国ほか世界各地に散見する。日本の弥生時代(北部九州)のように,成人を埋葬するために大型土器を作ることは,世界的にもむしろ珍しい。甕棺には,土器1個を用い(単棺),蓋に木,石,浅い土器をかぶせるもの,土器2個の口を合わせて連ねるもの(合せ口甕棺),さらには,もう1個,底を抜いた土器を加えて3個連ねたものなどが区別できる。単棺は,垂直あるいはそれに近く斜めに葬ることが多い。まれには遺体の上に逆に伏せ,蓋を用いない用法(西アジア先史時代の例,佐賀県葉山尻の甕棺)もある。合せ口甕棺にも垂直あるいはそれに近く斜めに埋めたものがある。しかし,合せ口甕棺,3連甕棺は水平近くに埋めることも多い。なお,単棺,合せ口甕棺を問わず,棺の最も下にあたる部分に,棺内の液体を排出するための小孔をうがつことがヨーロッパ,中国,日本など世界各地に共通してみられる。埋葬の方法が明らかな北部九州の弥生甕棺は,墓穴にまず下甕を納め,屈曲した姿勢の遺体をさしいれた後,上甕をかぶせ,合せ口の部分を粘土で目張りしている。火葬骨やその灰を納めるにも日常の土器を転用することが多い(ヨーロッパ青銅器時代の骨壺墓地アーンフィールド文化,日本の奈良時代)。しかし,それを目的として特別の容器を作ることもある。ヨーロッパ青銅器時代の家形骨壺や顔付骨壺はその代表例である。遺体を地上もしくは地下に長期間置き,皮,肉が腐った後,骨を洗って容器に納める葬法(洗骨葬)は,沖縄の実例で有名である。その骨壺は厨子(ずし)と呼ばれている。この種の二次葬に用いた土器も甕棺,壺棺とよばれる。日本では,縄文時代後期の青森県下で大型土器に骨を納めたものがあって洗骨に結びつけられている。また,弥生時代中期に関東地方から東北地方南部にかけて再葬墓と呼ばれる墓がおこなわれた。径1~数mの墓穴に数個~十数個の壺や甕が納められており,こうした墓穴が数~数十群集している。この場合も,土器のなかに二次葬によるとみられる人骨が納められているが,1個1個の土器は1体分の人骨を収納するには小さすぎ,むしろ,いくつもの土器に分けいれた可能性が考えられている。日本の甕棺を代表する弥生時代北部九州のそれは,集落付近に数十~200あるいは300と群在し,甕棺墓地を形成している。その大多数は,死者に特に添えたもの,すなわち副葬品をもっていない。しかし,甕棺墓地を形成する甕棺のうちの若干に,中国や朝鮮半島から到来した青銅製の武器や鏡を副葬していることもあり,さらには,稀有な例だがひとつの墓に鏡20面以上など,大量の副葬品を添えたものもあって(三雲遺跡,須玖遺跡),中国の史書にみえる〈奴国〉〈伊都国〉などの〈王墓〉に比定する考えも強い。ただし,これら副葬品が集中する墓に用いた甕棺は,副葬品をもたない一般の甕棺と同種のものであって,しかも,その墓は,他の甕棺墓と同じ共同墓地の一画に位置するものであり,甕棺墓地の時代には,その被葬者がなお一般成員の一員であったことを示している。
執筆者:佐原 眞
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…また,埋葬に際して遺体周辺に赤色顔料を散布することが旧石器時代以来,世界各地の墓でみられ,浄めの意味などが説かれている。
[埋葬地と施設]
埋葬に際して,遺体は樹皮,布,わらなどで包んだり,さらに木棺,土器棺(とくに甕棺(かめかん)),陶棺,石棺に納めることが多い。火葬骨は土器か金属製の容器に収納することが多い。…
…本来,埋葬や祭儀用に作った土器もある。代表的なものは,北部九州の甕棺(かめかん)で,高さ1mに達する特大の甕を棺として用いている。また甕棺墓地でまとまって見いだされる壺,甕,高杯,鉢,そして壺をのせる高い器台は,ていねいな作りで赤く塗ってあり,使用の痕跡をとどめておらず,明らかに墓地で営まれる祭りのため特別に作り,使ったものである。…
※「甕棺」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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