中国、殷(いん)代で、占卜(せんぼく)に用いた亀甲(きっこう)・獣骨上に小刀をもって刻みつけられた文字。今日知られる最古の漢字である。殷の都址(とし)であった河南(かなん/ホーナン)省安陽(あんよう/アンヤン)県小屯(しょうとん)村を中心に出土し、出土総数10万片を超える。殷王第21代武丁(ぶてい)より第30代末王帝辛(しん)(紂(ちゅう))までのもので、ほぼ紀元前1400年~前1150年の間の産物である。亀甲獣骨文字、殷墟(いんきょ)文字、卜辞(ぼくじ)、殷墟書契(しょけい)、契文と称されることもある。文字数は約2200字、うち1000余字が未解読であるが、このうちには固有名詞などこれ以後消滅した文字が多いため、文章としては大意の明らかなものが多い。宋(そう)代以来、殷周青銅器銘文(金文)の研究蓄積を踏まえて、1899年の発見後、急速に解読され、殷代文化の解明のためにきわめて大きな役割を果たした。なお、別に1977年以降、陝西(せんせい/シャンシー)省岐山県近くの周原において、殷代末期に周族によって占卜された有字甲骨が発見されるに至り、学界の注目をひいている。
[松丸道雄]
『白川静著『殷甲骨文集』(1963・二玄社)』▽『郭沫若主編『甲骨文合集』(1978~83・中華書局)』
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卜辞(ぼくじ)ともいう。殷墟(いんきょ)などから出土した占卜(せんぼく)用の亀甲(きっこう)獣骨に刻された文字。漢字の最も古い形を示す。1899年発見以来,研究解読が進み,特に1928年以後殷墟の科学的発掘をへて,時期的区分,占卜の内容による区分がなされ,また殷代の世系,祭祀,暦法,政治,経済,社会などの解明に,基本的資料として重要である。
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…現在知られるその最古の形は殷墟から出土した亀甲,獣骨に刻せられた文字である。これを殷墟文字または甲骨文字(甲骨文)と呼び,だいたい前1500年くらいといわれる。この文字は多分に絵画的であるが,しかしすでにかなり慣習化され,線条的になっていて,けっしてこの文字の原始状態そのままであるとは考えられない。…
…20世紀初頭の殷墟(いんきよ)や敦煌から発現した新資料の価値をいち早く認識し,その収集と整理に努力してきたが,日本滞在中に《鳴沙石室佚書》《流沙墜簡》をはじめ《芒洛冢墓(ぼうらくちようぼ)遺文》など数多くの資料集を出版した。とりわけ,前・後・続3編の《殷墟書契》は近代的印刷による甲骨文字のはじめての図録集で,その解説《殷墟書契考釈》とともに甲骨学研究の基礎を築いたものである。19年に帰国し,以後は天津に住み宣統廃帝溥儀(ふぎ)の師となり,その間,宮中内閣大庫の明・清時代の文書類(檔案(とうあん))が故紙として流出,廃棄されんとするのを防ぎ,あるいは東方学会を設立するなど,資料保存,学問の基礎作りに貢献した。…
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