精選版 日本国語大辞典 「畏い」の意味・読み・例文・類語
かしこ・い【畏・恐・賢】
- 〘 形容詞口語形活用 〙
[ 文語形 ]かしこ・し 〘 形容詞ク活用 〙 - ① おそるべき霊力、威力のあるさま。また、それに対して脅威を感ずる気持を表わす。おそるべきだ。おそろしい。
- ② 尊い者、権威のある者に対して、おそれ敬う気持を表わす。おそれ多い。もったいない。
- (イ) 畏敬(いけい)する者、またはその言動に対して用いる。その言動を受ける者の感謝の心がこめられる場合もある。→かしこくも。
- [初出の実例]「恐之(かしこし)。此の国は、天つ神の御子に立奉らむ」(出典:古事記(712)上)
- 「かくかしこきおほせごとを光にてなん」(出典:源氏物語(1001‐14頃)桐壺)
- (ロ) 畏敬する者にかかわる言動をする場合に用いる。自身の行動に対する「申しわけない」気持のこめられる場合もある。
- [初出の実例]「過(あやま)ち作りしは甚畏(かしこし)」(出典:古事記(712)下)
- 「天地の 神をそ祈る 恐(かしこく)あれども」(出典:万葉集(8C後)六・九二〇)
- (ハ) 畏敬の意味が軽くなって、「かしこけれど」の形で「恐縮ですが」の意の挨拶語として用いる。
- [初出の実例]「かしこけれど、この御前にこそはかげにもかくさせ給はめ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)花宴)
- (イ) 畏敬(いけい)する者、またはその言動に対して用いる。その言動を受ける者の感謝の心がこめられる場合もある。→かしこくも。
- ③ 他からあがめ敬われる程にすぐれているさま。また、それに対する尊敬、賛美の気持を表わす。
- ④ 人または事柄が尊重すべく、重要、重大であるさま。また、それを大切にし、慎重に思う気持を表わす。
- [初出の実例]「こもり、いとかしこうまもりて、わらはべも寄せ侍らず」(出典:枕草子(10C終)八七)
- ⑤ 物事が望ましい状態であるさま。また、それを賛美し、よろこぶ気持を表わす。結構だ。好都合だ。よい具合だ。
- [初出の実例]「かしこくも取りつるかな。我はさひはひありかし。思ふやうなる婿ども取るかな」(出典:落窪物語(10C後)二)
- ⑥ 自身に好都合なように計らうことの巧みなさま。抜け目がない。巧妙だ。
- [初出の実例]「人にはただ御病の重きさまをのみ見せて、かくすぞろなるいやめの気色しらせじとかしこくもてかくすと思しけれど」(出典:源氏物語(1001‐14頃)蜻蛉)
- ⑦ 程度のはなはだしいさま。「かしこく」の形で副詞的に用いる。はなはだしく。
- [初出の実例]「男はうけきらはず呼びほとへて、いとかしこく遊ぶ」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
- 「かぜふき、なみあらければ、ふねいださず。これかれ、かしこくなげく」(出典:土左日記(935頃)承平五年一月二七日)
畏いの語誌
( 1 )アニミズム(精霊崇拝)に基づき、精霊の威力を畏怖する気持に由来したといわれる。畏怖から畏敬へ、さらに神などの畏敬すべき能力を表わすようになり、平安時代には資質や能力がすぐれていることをいうようにもなった。
( 2 )「かたじけなし」が時代とともに敬意の程度をあまり下げることがなかったのに対して、「かしこし」は敬意の程度を人智を超えるものから一般的なものへと下げていったといえる。
( 3 )語幹「かしこ」は手紙の末尾(後には女性の)に用いられる語として固定し、感動詞「あな」がついた「あなかしこ」は、禁止を表わす表現を伴って、陳述副詞の機能を持つようになる。→あなかしこ③。
畏いの派生語
かしこ‐が・る- 〘 自動詞 ラ行四段活用 〙
畏いの派生語
かしこ‐げ- 〘 形容動詞ナリ活用 〙
畏いの派生語
かしこ‐さ- 〘 名詞 〙