石川県白山市の旧鶴来町に鎮座。おそくとも9世紀初頭までには成立していた霊峰白山(はくさん)への登拝路の一つである加賀馬場(ばんば)を前身とする。現在は社伝により菊理媛(くくりひめ)神,伊邪那岐(いざなき)神,伊邪那美(いざなみ)神の3座をまつるが,本来の主神は白山比咩神(鎌倉時代以後菊理媛神説が中心)で白山を神体山とする。延喜式内社(小社)で神階は853年(仁寿3)従三位,859年(貞観1)正三位にのぼり,加賀国の一宮。旧国幣中社。
加賀馬場は平安中期までに白山七社に分かれるが,その本宮は手取川の安(阿)久濤(あくと)の淵に臨んでいたため鎌倉時代に洪水で流失,以後いくたびかの変遷を経て1488年(長享2)旧社地の東方近傍の山麓にあった三宮を本宮鎮座地と定め,三宮姫神を相殿神とすることになった。これが現社地である。神主職は平安以来上道(かみつみち)氏が補せられ,中世に建部(けんべ)氏が加わって西神主(上道)・東神主(建部)として並列したが,後に水島,守部(もりべ),大桑氏らも社家としてこれに当たるようになった。ただし神仏習合で白山(はくさん)寺が成立し,平安末に延暦寺別院となり叡山と結びつくに及んで,実権はしだいに社家から社僧に移っていた。社僧は堂僧と講衆からなり,惣長吏が統轄した。また独自の白山修験の教団組織とか御師(おし)の発達はみられなかったが,修験道の霊場として古来著名であったので止宿する修行僧や修験者も多かった。これらも含めて白山衆徒と称された社僧や神人(じにん)は,白山本宮,白山寺を支配したのみならず,守護勢力の弱かった鎌倉時代以後の加賀では,在地小領主の国人層や国衙と対抗するだけの勢力を保ち続けたが,室町時代末期の一向一揆によってその世俗的権力は衰微,社頭も荒廃した。社殿の復興は,江戸時代に加賀藩主前田家の保護を得てからである。しかし,白山嶺上の管理をめぐっての越前馬場平泉(へいせん)寺との争論には敗れ,白山を含む山麓18ヵ村が天領となり,また山上堂社の支配権は平泉寺に与えられ白山本宮から離された。現状のように嶺上の神祠が白山比咩神社奥宮となり,当社が全国2700余の白山(はくさん)神社の本社と仰がれるようになるのは1873年以後である。
いくたびかの洪水,火災で多くの社宝が失われたが,吉光銘の剣(国宝),太刀,狛犬,螺鈿鞍(らでんくら),沈金手筥(以上,重要文化財)など鎌倉・室町期の美術工芸品,《白山之記》《三宮古記》《荘厳講中記録》《神皇正統記》(以上,重要文化財)をはじめ近世に至る多くの典籍記録文書を所蔵,《白山史料集》《白山比咩神社文献集》などが公刊されている。
→泰澄 →白山
執筆者:下出 積與
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
石川県白山(はくさん)市三宮(さんのみや)町に鎮座。通称「白山(はくさん)」。祭神は白山比咩神(菊理媛(きくりひめ)神)、伊弉諾尊(いざなぎのみこと)、伊弉冉(いざなみ)尊。延喜式内社で、9世紀初め白山へ登拝する道の基点として開かれた白山三馬場(ばんば)の一つ加賀馬場(他の二つは越前馬場・美濃馬場)である。また加賀一宮(いちのみや)。創建はさだかでないが、霊峰白山を神体山として崇めたことに始まり、社伝では崇神(すじん)天皇7年と伝える。853年(仁寿3)従三位(じゅさんみ)を授けられ(文徳実録(もんとくじつろく))、859年(貞観1)正三位。中世には白山七社と称し、衆徒3000人を擁したという。白山本宮・白山寺として親しまれてきたが、明治維新後の神仏分離で現社名に改称した。旧国幣中社。例祭日は5月6日、梅枝を古式ゆかしく神前に献ずる梅ヶ香祭が行われる。銘吉光(よしみつ)の剣(国宝)、『白山本神皇正統記(じんのうしょうとうき)』(国重要文化財)以下社宝も多い。
[平泉隆房]
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…三馬場とも修験の霊場で山伏の往来は盛んであったが,御師(おし)の活動は美濃馬場以外は著しくない。明治の神仏分離で三峰に安置の仏像はすべて下ろされ,白山寺は白山比咩(しらやまひめ)神社,平泉寺は白山神社(旧県社。福井県勝山市),長滝寺も白山神社(旧県社。…
※「白山比咩神社」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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