1916年(大正5)本多光太郎(こうたろう)、高木弘(東北帝国大学)によって発見された永久磁石の名称。K、Sの名は、この研究費を寄贈した住友吉左衛門(きちざえもん)の頭(かしら)文字をとったものである。コバルト30~35%、タングステン6~8%、クロム1.5%、炭素0.8%を含む特殊鋼で、約950℃から焼入れして、高い硬度をもつマルテンサイトとする。その残留磁束密度は約1.1テスラ、保磁力は約20キロアンペア毎メートル、最大エネルギー積は単位立方メートル当り8キロジュールであって、当時世界最強の永久磁石であった。炭素鋼の場合でも、焼入れによって4~5キロアンペア毎メートル程度の保磁力が得られ、磁石となる。KS鋼はそれに比較して数倍も高い保磁力を示し、これが最大エネルギー積を高め、強力な永久磁石材料とした。保磁力の増加は、添加された元素と熱処理によるものであるが、とくにコバルトの添加による鉄の磁気ひずみの増加がその主因であると考えられている。KS鋼の発見以来、これまで次々と強力な新しい永久磁石材料が開発されてきた。そのため現在ではKS鋼は永久磁石としてほとんど使用されていない。しかし、KS鋼の発見は永久磁石材料の開発の歴史上の原点として、その成果は高く評価されている。
[本間基文]
1917年に本多光太郎と高木弘によって発明された磁石鋼。成分はコバルト35%,クロム3~6%,タングステン5~6%,炭素0.9%である。19世紀には強い永久磁石を作るには,鋼を焼入れして硬くして磁石とするという考え方であった。はじめは炭素鋼を使っており,永久磁石の性能の指標となる保磁力は60エルステッド程度であった。その後タングステンやコバルトを添加した鋼が発明され,特性がよくなっていった。この流れのなかでの重要な発明がKS鋼であって,保磁力が約250エルステッド,当時の合金鋼磁石(タングステン鋼)の3倍以上あって,世界の注目を集めた。これらはいずれも鋼を焼入れ硬化して,堅い組織の中のひずみを利用して保磁力を出すものであったが,その組成が不安定なため磁性が変化するなどの欠点もあり,31年に発明されたMK鋼に道をゆずった。しかし,圧延,鍛造,切削などの加工が容易で,比較的安価であるという特徴もある。33年にはKS鋼は改良されNKS鋼となり,MK鋼とならび強力な永久磁石合金として利用されている。
→磁性材料
執筆者:大久保 忠恒
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強力磁石鋼の一種。1917年(大正6)本多光太郎が発明した磁石鋼。従来の永久磁石鋼に比べて保磁力・優良度ともに3倍以上で,おもに計器類に使われた。研究費を援助した住友吉左衛門の頭文字からKS鋼と命名された。
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…(3)用途・特性による分類 (a)一般構造用鋼 低合金高張力鋼,強靱(きようじん)鋼,超強力鋼など,(b)機械構造用鋼 肌焼鋼,快削鋼,ばね鋼,ベアリング鋼,耐摩耗鋼など,(c)工具鋼 低合金工具鋼,高速度鋼,ダイス鋼,鍛造用形鋼,(d)耐食鋼 耐候鋼,耐硫酸鋼,耐水素誘起割れ鋼,ステンレス鋼,超合金耐食鋼など,(e)耐熱鋼Cr‐Mo鋼,ステンレス鋼,超合金耐熱鋼など,(f)特殊用途鋼 永久磁石鋼,電磁鋼板,制振鋼板,低温用鋼,非磁性鋼など(表2に用途別の種類をまとめて示す)。(4)有名な通称をもつ鋼 (a)KS鋼 本多光太郎の発明したCo‐Cr‐Wを成分とする永久磁石鋼で,焼入れをして使う。住友吉左衛門の頭文字にちなんで命名,(b)MK鋼 三島徳七の発明したAl‐Ni‐Coを成分とする永久磁石鋼で,鋳造法で製造する。…
…その結果,セメンタイトのA0(磁気)変態点を確認し,鉄のA2変態が相変態ではなく磁気変態であることを確証して,β鉄論争に決着をつけた(1916,帝国学士院賞)。第1次大戦中より大学への研究所設置に努力し,16年東北帝大に新設の臨時理化学研究所第2部の研究主任となり,同年高木弘の協力で強力な永久磁石鋼KS鋼を発明した。本多はこの研究所の業績を社会へ紹介し,その拡充に努めた(1919年鉄鋼研究所,22年金属材料研究所)。…
※「KS鋼」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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