社会保障法(読み)しゃかいほしょうほう(英語表記)social security law

改訂新版 世界大百科事典 「社会保障法」の意味・わかりやすい解説

社会保障法 (しゃかいほしょうほう)
social security law

社会保障法とは社会保障制度に関係する法令の全体をさすこともあるが,法学上は国民の生存権,すなわち健康で文化的な生活を営む権利を実現することを目的とした生活保障給付の法体系をいう。それは第2次大戦前後に各国で出現したが,それ以前には労働者保護法の一部であった社会保険立法社会保険),極貧者に恩恵的救済を施していた救貧立法(救貧制度),またこれと表裏一体となっていた社会事業立法等が断片的に存在していた。これらの諸立法が生存権原理の浸透をうけて,生活保障の統一的法体系に発展・再編成されたのが社会保障法である。この法は現代の国民生活に不可欠のものとなっており,国際的にも世界人権宣言(1948)22条,国際人権規約(1966)A規約9条に社会保障を受ける権利を普遍的な基本権として掲げている。また国際労働機関(ILO)の社会保障最低基準条約(1952)やヨーロッパ諸国で採択したヨーロッパ社会保障法典(1964)等が示すように,社会保障法の国際化の傾向が強まっている。

 社会保障法は,所得の喪失に対する所得保障給付の法と,生活機能の喪失に対する生活障害保障給付の法とに大別される。前者はさらに,傷病,労働災害,失業,老齢,障害,死亡等にそなえる生活危険給付の法と,現に貧窮状態におちいっている者に最低生活水準を保障する生活不能給付法とに分かれる。生活危険給付立法の多くは拠出制の社会保険方式をとるが,児童手当各法のように無拠出給付の形態をとる立法もある。社会保険方式をとるか否かは,その手段としての有効性の観点から決められ,一定の基準があるわけではない。社会保険方式では労働者(被用者)保険と一般国民保険との区別があり,給付水準に差がある。将来の検討課題である。生活不能給付法はその目的上当然に無拠出かつ無条件の給付であるが,資力調査(ミーンズ・テスト)によって最低生活水準以下にあるか否かの判定が行われる。社会保障法の理想は,生活危険給付の充実によって生活不能給付の必要をなくすことにある。生活障害保障給付の法は,児童,老人,身心障害者などのように自立して生活するうえでのハンディキャップをもつ人に,その障害を軽減ないしは除去することを目的とする。したがって給付内容は専門的技能をもつ人と専門的施設を通じてなされる社会サービスである。社会福祉立法と称されるものの大部分医療の給付を定める各法(社会保険方式のものも含めて)がこの分野に属する。ただし生活障害保障給付は法的に義務づけられていないものが多く,生存権保障の実現という点で改善が必要とされる。保障の受給権に争いがあるときは,行政不服審査手続を経たうえで裁判所行政訴訟を提起することができる。受給権は一身専属権で譲渡できず,差押えも禁止される。
社会保障
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「社会保障法」の意味・わかりやすい解説

社会保障法
しゃかいほしょうほう

要保障者に対して国,地方公共団体その他が行う社会的給付をめぐる権利義務を中心としてその費用の負担などの法律関係を規定する立法の総称。広くは,公的扶助と社会保険を中心にして,社会福祉と公衆または環境衛生を,さらには恩給と戦争犠牲者援護をも含む領域に属する法を総称していう。通常はこれより狭く解されて,公的扶助,社会保険援護 (社会手当) ,社会福祉を主要な柱とする法部門をいう。公的扶助に関しては,生活保護法,児童扶養手当法などがあり,社会保険に関しては,健康保険法国民健康保険法厚生年金保険法国民年金法雇用保険法労働者災害補償保険法その他多くの法律がある。なお福祉関係については,老人福祉法,児童福祉法などがある。

社会保障法[アメリカ合衆国]
しゃかいほしょうほう[アメリカがっしゅうこく]
Social Security Act

アメリカのニューディール政策の一環として 1935年に制定された法律。老齢年金保険と失業保険から成る社会保険制度,および社会保険に入れない老齢者や目の不自由な人などに対する公的扶助制度,種々の社会福祉事業の3つの系列の福祉政策を骨格としており,管轄機関として社会保障局が創設された。

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世界大百科事典(旧版)内の社会保障法の言及

【公的扶助】より

…元来このような厳密な意味での制度としての公的扶助は,資本主義の一定の発達段階で整備されるべきものである。すでにアメリカでは,時・所に応じ制度化されていたが,1935年社会保障法成立によって,社会保険と並んで全国的な公的扶助制度として,老人,盲人,母子など諸範疇の州営扶助が設けられた。ただ社会保障体系としては,むしろILOの《社会保障への途》(1942)とかイギリスのベバリッジ報告(1942)などにおいて詳しく論議されており,このころに概念が確立されたといってよい。…

【社会福祉】より

… このような社会事業は,やがて国民一般を対象とする生存権保障制度の一環としての社会福祉へ脱皮することになるが,その過程において重要な契機を与えたのは第1次大戦とロシア革命,1929年に始まる大恐慌,そして第2次世界大戦であった。第1次世界大戦とロシア革命は国民の生存権に関する規定をもつ世界最初の憲法であるワイマール憲法をはじめとして労働者の政治的経済的同権化を推進する諸施策を成立させる契機となり,大恐慌はこれまた世界で最初に社会保障という名称を冠した社会保障法Social Security Act(アメリカ)の制定(1935)をもたらした。第2次世界大戦は,イギリスにおける福祉国家政策の青写真となったベバリッジ委員会報告(ベバリッジ報告)を生み出す契機となった。…

【社会保障】より


【社会保障の歴史――二つの系譜】
 社会保障は歴史的に形成され,生成発展してきた公的制度であり,国によって展開の過程がそれぞれ異なっているばかりでなく,一つの国においても時代とともにその形態や機能が変化している。社会保障という用語がはじめて公的に用いられたのは,ニューディール政策の一環としてアメリカで成立した社会保障法Social Security Act(1935)においてであり,ニュージーランドの社会保障法(1938)がこれに次いでいる。しかし,社会保障が生存権にもとづく生活保障の包括的な制度として具体化されたのは第2次大戦後のことであるが,このような制度の展開に決定的な影響を与えたのは1942年のベバリッジ報告である。…

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