第1次世界大戦後のドイツを中心として一般化した概念であり,所有権の絶対,契約自由の原則,過失責任主義を基本原理とする近代市民法を修正する意味をもつ法を指す。その意義については種々の考え方があり定説はないが,代表的な学説としては,O.F.vonギールケ,G.ギュルビッチ,G.ラートブルフなどの名をあげることができる。このうち日本の社会法理論に大きな影響を与えたのは,ラートブルフである。彼は,近代市民法が人間を抽象的に自由・平等な権利主体としてとらえる人間観に立ちつつ個人の自由な営利競争を指導原理とする法であるとし,しかしこうした自由競争と資本主義の発展が現実には貧富の差の拡大や階級による不平等と対立をひき起こし,さまざまな社会問題を生ぜしめてきたと述べる。そしてこうした矛盾と問題に対処するために社会法の観念が生み出されてきたとし,社会法は経済的に弱者である個々人にその現実におかれている具体的な社会的地位に注目してさまざまな法的保護を与えるものであると主張した。この意味で,社会法が市民法と対比される場合には,市民法の〈自由平等な権利主体としての個人〉という抽象的な人間観に対して,〈現実的具体的な社会的地位を有する人間〉という人間観の対立が考えられている。また法の役割に関しても,両者の間には,〈法は市民社会の単なる夜警である〉という市民法的考え方と〈法は単なる夜警にとどまらず社会的弱者保護のために経済社会に積極的に介入すべきである〉という社会法的主張の対立が存在している。実定法の領域では社会法としてまとまった法領域は存在しないが,さまざまな分野で社会法の性格を有する法が存在する。まず日本国憲法25条は国民の生存権と国の社会的使命について規定し,社会法の理念を明らかにしている。社会法の中心的分野としては労働法の諸法があり,労働関係の契約方法や労働条件などについて労働者を保護している。その他の社会法としては,経済統制法,社会保障法,公害防止に関する法などをあげることができよう。
執筆者:桂木 隆夫
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普通、所有権の絶対、契約自由の原則などを基本原理とする近代私法体系の意味での市民法bürgerliches Rechtと対比して、これらの原理を修正する意味をもつ法ないし法理・法思想を社会法Sozialrechtというが、この点については議論が多岐に分かれる。社会法の生成は、20世紀初頭以来のいわゆる社会問題(失業、貧困など)とこれに対応する国家の側からの社会政策のクローズアップを背景とし、また労働法や経済法といった、私法(民法)体系とはその原理を異にする新しい実定法部門の成立と結び付いている。ジンツハイマーやラートブルフが論じたように、市民法と異なりそこには、形式的平等にかわって実質的衡量が、抽象的な市民にかわって具体的な社会人が登場する。市民法がすべての人間を抽象的に平等な市民としてとらえてきたのに対して、社会法は人間を一定の階級・階層や集団に属する具体的な人間としてとらえ、とくに国家が人間の尊厳に値する生活の保障を積極的に配慮すべき社会的弱者を重視するわけである。社会法はこの意味で資本主義社会の矛盾によって生み出されたものといえるが、市民法原理の修正はもとより、この資本主義の枠組みにとどまる。労働法や経済法が独立の法ないし法学部門として独立した今日では、社会法を狭く社会福祉に関する法に限定してみる立場もあるが、社会問題が失業、貧困のみならず、中小企業、農業民、住宅、公害等々の問題へと拡大していることからすれば、その意義はますます重みを増しているともいえる。
[大江泰一郎]
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