祈年祭(読み)トシゴイノマツリ

デジタル大辞泉 「祈年祭」の意味・読み・例文・類語

としごい‐の‐まつり〔としごひ‐〕【年祭】

奈良平安時代、陰暦2月4日に神祇官国庁五穀豊穣を祈り行った祭。祈年祭。

きねん‐さい【祈年祭】

としごいのまつり(祈年祭)

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精選版 日本国語大辞典 「祈年祭」の意味・読み・例文・類語

きねん‐さい【祈年祭】

  1. 〘 名詞 〙 奈良・平安時代、毎年陰暦の二月四日、神祇官、国庁で行なった五穀豊穰などを祈った祭儀。「延喜式」によれば、祈年祭にまつる神は全国で三一三二座で、その神社名は「延喜式神名帳」に見える。室町時代応仁の乱を経て廃絶し、明治五年(一八七二)に再興された。祈年の祭。としごいまつり。《 季語・春 》 〔小野宮年中行事(1029頃)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「祈年祭」の意味・わかりやすい解説

祈年祭 (きねんさい)

年穀の豊穣と国家の安泰を祈る祭り。年のはじめに豊作を願う春祭と同意。訓読して〈としごいのまつり〉ともいう。その起源は律令以前にさかのぼる春の予祝儀礼にあると思われる。それは当時祈年祭にあたって,御年皇神(みとしのすめがみ)に〈白馬・白猪・白雞〉を献ずるのが例であったが,その理由について《古語拾遺》がきわめて呪術的な起源説話を載せているところから推察できる。しかし,祈年祭それ自体は古来の伝統的祭祀をふまえて,律令制確立とともに始まったと見てよい。祭日は,神祇令で仲春(2月)に執行とあるだけだが,しだいに固定化がすすみ,《延喜式》では2月4日に決まった。当時は,《延喜式》神名帳に載せるすべての神(全国3132座)に幣(みてぐら)を奉ったのであり,この祭りの意義と盛大さもここに見いだすことができる。この祭りは,神祇官の斎院(さいいん)に百官を集めて執行され,中臣氏が祝詞を奏し忌部氏が諸社の神主に幣を頒った。したがって,地方の神主や祝部(はふりべ)はこれを受け取りに参上し,それぞれ帰社の後祭祀を奉仕した。そのため遠隔地ではその実行が難しく,なかなか徹底しなかった。応仁の乱後廃絶し,その後,江戸の元禄期に再興をはかったができずに,1869年(明治2)に至って再興した。古儀再興に伴い,まず2月4日に宮中において頒幣の儀を行い,同17日に宮中三殿で祭祀を行った。また同日,伊勢神宮へは勅使を派遣して祭祀を執行するほか,全国の官国幣社でも大祭で奉仕した。1914年以後は府県社以下の神社へも頒幣が行われるようになった。第2次大戦後は占領軍の〈神道指令〉によって,一時期衰微したが,春祭と名を変えて存続し,最近では旧称に復した。伊勢神宮では現在も古儀による祈年祭が厳修されている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「祈年祭」の意味・わかりやすい解説

祈年祭(としごいのまつり)
としごいのまつり

字音で「きねんさい」と称することが多い。この「とし」とは五穀(ごこく)のなかでもっぱら稲をいうが、稲を主として他の穀類に至るまで成熟を祈る祭りである。わが国の社会文化は、本来この稲作中心の農耕社会を基盤として成立しており、春に年穀の豊穣(ほうじょう)を祈り、秋に豊作を感謝する祭り(新嘗祭(にいなめのまつり))を行うのが農耕祭祀(さいし)儀礼の基本であった。古代では祭政一致の語が示すように、政治(まつりごと)は生産物の収穫に基づいていたので、祭祀も重要な国家儀礼に位置づけられていた。律令(りつりょう)国家体制では、祈年祭は、2月に神祇官(じんぎかん)での国家祭祀となり、6月・12月の月次(つきなみ)祭、11月の新嘗祭とともに四箇祭(しかさい)として「国家の大事」とされた。『延喜式(えんぎしき)』神名帳に載せる3132座の神には、祈年祭にあたり幣帛(へいはく)が奉られる決まりであったが、律令制が弛緩(しかん)し、応仁(おうにん)の乱以後はまったく廃絶した。明治になって神祇官とともに、伊勢(いせ)神宮・宮中の祈年祭が再興され、また諸国の神社でも官祭として執り行われるに至り、皇室・国家から幣帛が供進(ぐしん)されたが、第二次世界大戦後は公的な性格は失われた。現在、各地の神社においては、祈年祭とは称さないが、祭りの性質上同様の神事が広く行われている。

[牟禮 仁]


祈年祭(きねんさい)
きねんさい

祈年祭

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「祈年祭」の意味・わかりやすい解説

祈年祭
きねんさい

神祇官,国府において穀物の豊作を祈る祭り。「としごいのまつり」ともいう。中祀。式日は毎年旧暦2月4日。当日官庁の執務は中止。『延喜式』によれば,祭神は全部で 3132座。このうち神祇官で祭る神は 737座で,案上 (あんじょう) の官幣にあずかる大社 304座,案下 (あんげ) の官幣にあずかる小社 433座。また国司の祭る神 (国幣社) は 2395座で,大社 188座,小社 2207座。祭りには散斎3日,致斎1日の潔斎を行う。儀式は中臣が祝詞 (のりと) を読み,忌部が幣帛 (へいはく) を分け,特に大和国御歳神 (みとしのかみ) には,白鶏,白猪,白馬を奉納する。

祈年祭
としごいのまつり

祈年祭」のページをご覧ください。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「祈年祭」の解説

祈年祭
きねんさい

「としごいのまつり」とも。「とし」は穀物のみのりを意味し,その年の稲の豊穣をすべての神々に祈願する祭。神祇官登録の全官社に神祇官で班幣(はんぺい)するもので,律令国家形成とともに成立した律令制祭祀の一つ。2月4日に行われた。唐の祈穀郊(きこくこう)の影響も考えられる。798年(延暦17)には国司班幣が始まり,官幣と国幣にわかれた。「延喜式」神名帳では3132座に班幣されている。成立以来重視されていたが,10世紀初頭には衰えはじめ,応仁・文明の乱で廃絶。1869年(明治2)伊勢神宮で再興。現在,伊勢神宮では2月17日に五穀の豊穣を祈念して,神饌(しんせん)を供える大御饌(おおみけ)の儀と,勅使が参向する奉幣の儀が行われる。


祈年祭
としごいのまつり

祈年祭(きねんさい)

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百科事典マイペディア 「祈年祭」の意味・わかりやすい解説

祈年祭【きねんさい】

〈としごいのまつり〉とも。年の初めにその年の穀物の豊穣を祈る宮中の祭。春に田の神を山から迎え,秋に再び山へ送るという農耕儀礼が,8世紀ごろから宮廷儀礼としても行われるようになったもの。2月4日に行われたが,中世以降中絶。明治以後復活されたが,戦後廃止。
→関連項目皇室祭祀祝詞

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旺文社日本史事典 三訂版 「祈年祭」の解説

祈年祭
きねんさい

旧暦2月4日,その年の豊作を祈る祭り
「としごいのまつり」とも読み,「とし」は穀物のみのりを意味した。国家的儀式で神祇官や国庁で儀式があり,諸社の格式により神祇官・国司から幣帛 (へいはく) を奉った。応仁の乱以後廃絶したが,明治時代以降,国家神道の立場から復活した。

祈年祭
としごいのまつり

きねんさい

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世界大百科事典(旧版)内の祈年祭の言及

【祈年祭】より

…その起源は律令以前にさかのぼる春の予祝儀礼にあると思われる。それは当時祈年祭にあたって,御年皇神(みとしのすめがみ)に〈白馬・白猪・白雞〉を献ずるのが例であったが,その理由について《古語拾遺》がきわめて呪術的な起源説話を載せているところから推察できる。しかし,祈年祭それ自体は古来の伝統的祭祀をふまえて,律令制確立とともに始まったと見てよい。…

【皇室祭祀】より

…神武天皇の即位日とされる2月11日の紀元節祭は73年,春秋二季に祖霊を祭る皇霊祭,諸神を祭る神殿祭は78年に新設されたが,紀元節祭は1948年の紀元節廃止により停廃された。
[小祭]
 1月1日の歳旦祭,2月17日の祈年祭,11月3日の明治節祭,12月中旬の賢所御神楽,天皇誕生日の天長節祭,先帝以前3代の例祭(命日),先后および母后の例祭,歴代天皇の式年祭が小祭である。このうち祈年祭は神祇令所載の古い祭典で,毎年2月4日豊作を祈願して全国の神社に奉幣するものであるが,宮中三殿においても2月17日に祭典を行うことが皇室祭祀令に定められた。…

【春祭】より

…祭りは本来季節をもたらす行事であるから,季節感覚に先行する傾向がある。古代律令制で神祇官所祭の四時祭では,仲春2月の祈年(としごい)(祈年祭(きねんさい))と季春3月の鎮花(はなしずめ)(鎮花祭(ちんかさい))とが春祭にあたった。祈年のトシの原義は稲穀の実りをいい,春に農事を開始するにあたり御年神に一年の稲作が無事に成就して豊かで平和な年であることを祈る祭りが祈年祭であり,鎮花祭は古来御霊を意味するモノの主である大物主神をまつる大神(おおみわ)神社の神事で,モノを花に見立てモノの飛散が悪疫を流行させぬよう落花を鎮める行事だとされる。…

※「祈年祭」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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