改訂新版 世界大百科事典 「神幸祭」の意味・わかりやすい解説
神幸祭 (じんこうさい)
神霊の来臨,移動を中心とする神事。渡御祭とかお旅とかお出でともいい,本社に帰るのをとくに還幸祭などともいう。日本の祭りは,神霊の出現を待ってその招迎と鎮送を基本とするので,おのずから神迎えと神送りの儀礼を伴うものが多いが,神霊の動座そのものを神威の顕現形式としてとくに重んじる場合にこれを神幸祭という。神幸とは神の幸御または御幸の意。幸御は尊貴の者が望外の幸せをもたらす意から天子の外出来臨をいうが,日本では天皇のミユキ(御行)を行幸となし,神のミユキを神幸となす。中世以来,神霊を人格化して天皇の行幸に準じた御輿や鳳輦に神体を載せ,その前後を警護して人々が皇族や大名なみに行列を組むことが一般化した。だが本来は,神木や榊の枝に神霊を移して送迎するのが神幸の基本形式で,後代には神輿,鳳輦のほかにも榊,御幣,神馬,稚児など多彩な神霊の憑坐(よりまし),依代(よりしろ)が行列に重複して参加するようになった。中世以来京都から流行した祇園会風流の影響もあって,神幸行列がいっそう華やかなものになり,歌舞,囃子や山車,屋台の飾物が随行して土地の民俗芸能や伝統工芸の粋を集めている。神幸祭には,神来臨の神話や歴史を毎年再現するもの(賀茂みあれ神事,秩父夜祭,寒川浜降祭,香取軍神祭など),災害や疫病の流行を制圧する神の功徳を恒例化したもの(八坂・津島祇園祭,大杉あんば祭),祭神を芸能で慰めるもの(厳島管絃祭)などがあるが,一般には祭神ゆかりの地域社会を広く巡行して神人交歓しながらその神徳を広布することによって住民全体の安全と繁栄をはかろうとするものである。
執筆者:薗田 稔
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報