祭囃子(読み)まつりばやし

精選版 日本国語大辞典 「祭囃子」の意味・読み・例文・類語

まつり‐ばやし【祭囃子】

〘名〙 神社の祭礼に際して、笛や太鼓で合奏する陽気な囃子。各地に独特のものを多く伝えている。《季・夏》
※うねり(1950)〈永井龍男〉「祭囃子(マツリバヤシ)の稽古が、遠く聞えて居ります。秋祭りは二週間後であります」

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改訂新版 世界大百科事典 「祭囃子」の意味・わかりやすい解説

祭囃子 (まつりばやし)

広義には神社の祭礼に奉納されるすべての芸能の囃子をいい,狭義には神輿(みこし)に付随して練り歩く山車(だし)や屋台(やたい)などで演奏される囃子をいう。地域により特色があるが,主要楽器としては太鼓・篠笛(しのぶえ)・鉦(かね)などが用いられる。京都の祇園祭祇園囃子や江戸の葛西(かさい)囃子馬鹿囃子などはその代表的なものであり,とくに祇園囃子は歴史が古く,祭囃子としてほぼ全国に及んでいる。京都の祇園囃子は鉦・太鼓・笛(能管)によって演奏されるが,鉦がきわめて印象的で一口に〈コンチキチン〉と呼びあらわされており,笛は能管を用いる。その旋律やリズムは多彩で,山鉾(やまぼこ)ごとに演奏される曲目が異なり,一つの鉾が有するレパートリーは約30曲ある。たとえば,先頭に立つ長刀鉾(なぎなたぼこ)は《地囃子》《上げ》《神楽》《唐子》《兎》《流し囃子》《朝日》《青葉》《鼓》《霞》《筑紫》など26曲を伝える。

 江戸の祭囃子もまた祇園囃子の影響を受けて発生したが,その代表的なものに葛西囃子がある。享保(1716-36)のころ,葛西神社の神主能勢環によって始められたといい,五人囃子とも呼ばれるように,太鼓1,締太鼓2,笛1,鉦1の5人で編成されている。《打込み》《屋台囃子》《昇殿》《鎌倉》《四丁目》《屋台囃子》の6段を繰り返し演奏し,神輿巡行を迎えるときには《投げやり》を,道化の馬鹿踊には《忍馬(にんば)》,獅子舞には《勇み》《清め》《じゃれ》などの曲を演奏する。葛西囃子は江戸の天下祭といわれた山王祭や神田祭に奉仕するのを常とした。この系統の祭囃子は,東京目黒区の目黒囃子,同中野区の鷺宮(さぎのみや)囃子,都下福生(ふつさ)市の牛浜囃子,同小平市の鈴木囃子などに伝承されており,また関東一円や静岡県の〈三社祭礼囃子〉,滋賀県の〈水口(みなくち)囃子〉など広い分布を示している。

 まったく系統の違うものとしては,富山県高岡市関野神社曳山祭(5月1日)に演奏される御車山曳山(みくるまやまひきやま)囃子がある。祭礼の形式は祇園祭系統のものであるが,7ヵ所に1台ずつある華麗な曳山ごとに雅楽曲を演奏する。通町は《鳥向楽(ちようこうらく)》《青海波》《越天楽》,御馬出(おんまだし)町は《慶雲楽》,守山町は《振舞(えんぶ)》,木舟町は《高麗楽(こまがく)》《胡蝶》,小馬出(こうまだし)町は《迦陵頻(かりようびん)》,一番町通りは《桃李花》,二番町は《還城楽(げんじようらく)》となっているが,実際に雅楽曲を演奏するのは通町だけで,他の町は《祇園囃子》《本囃子》と称する曲を演奏している。これらの町がかつて雅楽曲を演奏していたかどうかは不明で,楽器は通町だけが笙(しよう)・篳篥(ひちりき)・羯鼓(かつこ)・大太鼓・鉦鼓などの雅楽器を使用し,他は笛・太鼓・鉦を中心とした一般的な祭囃子の楽器である。

 主要楽器に三味線を加える例として秋田県仙北市の旧角館(かくのだて)町の神明社祭(9月7~9日)の飾山(おやま)囃子がある。飾山は,黒布で大きな山をつくり,芸題にかなった人形や建物を配して町内を巡行するもので,神社へ向かうときの囃子を〈上り山〉といい,《本調子》《大山囃子》《小山囃子》《六法》《拳囃子》などの曲を,神社から町内へ戻るときの囃子を〈下り山〉といい《道中》を奏する。三味線のほかに太鼓・鉦・鼓・笛などの楽器を用いる。また,同県鹿角(かづの)市花輪町の幸稲荷神社祭礼(8月19,20日)の花輪囃子にも三味線が使用され,11台の華麗な屋台が曳き出されて,《二本滝》《羯鼓》《霧囃子》《宇現響》《本囃子》《祇園》《追込》《不二田(ふじた)》《矢車》《シカギリ》《拳囃子》などの曲を演奏する。楽器は三味線・太鼓・笛・鉦を使用する。秩父夜祭として有名な埼玉県秩父市秩父神社祭礼(12月3日)で6台の屋台で奏される秩父屋台囃子は,締太鼓4~5,大太鼓1に笛と鉦が加わる。屋台の円滑な運行をはかる囃子といわれ,締太鼓は〈さざ浪囃子〉と呼ばれる韻律的リズムを繰り返し,屋台の方向転換には〈玉入れ〉の囃子が奏され,聞きどころとされる。千葉県香取市の旧佐原市を中心に県内各地,茨城県各地に分布する佐原囃子も大太鼓・締太鼓・小鼓・鉦・笛などでにぎやかに演奏される独特のものである。

 また歌舞伎の下座(げざ)音楽にもとり入れられ,祭礼の場や神社の情景描写などに演奏される。太鼓・大太鼓・笛・鉦・三味線でにぎやかに打ち囃され,《屋台》《聖天》《鎌倉》《四丁目》などの曲がある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「祭囃子」の意味・わかりやすい解説

祭囃子
まつりばやし

祭礼囃子ともいう。神輿(みこし)が御旅所(おたびしょ)に渡御(とぎょ)するいわゆる神幸(しんこう)祭に、付祭(つけまつり)と称して氏子たちが出す山車(だし)(山、鉾(ほこ)、だんじり、屋台など車付きのもの、山笠(やまがさ)、きりこのように担ぐもの、水上では船など諸種の形態がある)、邌物(ねりもの)、底抜け屋台踊屋台などの運行に、山車上であるいは徒歩で奏する奏楽をいう。おもに笛、太鼓、鉦(かね)からなるが、土地土地によってさまざまである。広義には、そのほか付祭の神賑(にぎわい)に出る獅子(しし)舞の囃子や、神楽(かぐら)殿での神楽囃子なども祭囃子と解されている。

 祭礼が華々しく催されるようになったのは平安中期からで、まだ山車もなく、太鼓と鉦鼓(しょうこ)を棒で担いで囃して歩いた。このころはむしろ田楽(でんがく)の躍(おどり)囃子のほうが主流であった。山車の類(たぐい)が永続的に出るようになるのは室町初期の祇園(ぎおん)祭からと推量されるが(『後愚昧記(ごぐまいき)』永和(えいわ)2年〈1376〉6月14日の条の「鉾(ほこ)は常(つね)の如(ごと)し」が初見)、今日の祇園祭の山鉾は応仁(おうにん)の乱後の1500年(明応9)に復興をみたものとほぼ同じで、すでに祇園囃子の初態はうかがえる(1561年〈永禄四〉『耶蘇会士(やそかいし)日本通信』上)。この祇園囃子の発展が各地の祭囃子の展開を促したのである。現行の祇園囃子は、鉦7~8名、笛(能管(のうかん))7~8名、締(しめ)太鼓2~3名で、鉾ごとに曲が異なるため全部で300曲以上にもなり、曲調は洗練されている。大阪地方は天神祭(てんじんまつり)系の地車(だんじり)囃子で笛はないが大太鼓と双盤(そうばん)ですこぶるにぎやかである。関東は天下祭(てんかまつり)とよばれた山王(さんのう)祭、神田(かんだ)祭のいわゆる江戸祭囃子(神田囃子)が普及している。大太鼓、締太鼓(2)、篠笛(しのぶえ)、当(あた)り鉦(がね)からなり、粋(いき)で技巧的な曲が目だつ。江戸中期の享保(きょうほう)(1716~36)に始まった葛西(かさい)囃子が源流で、のちに道化の馬鹿面(ばかめん)踊りがついたため馬鹿囃子ともよばれる。似た編成では埼玉県秩父(ちちぶ)市の秩父屋台囃子が異色であるが、秋田県仙北市角館(かくのだて)町の飾山(おやま)囃子、岩手県奥州(おうしゅう)市の日高囃子などでは三味線が加わる。千葉県香取(かとり)市の佐原囃子では小鼓(こつづみ)、大鼓(おおつづみ)が加わり、神奈川県藤沢市の江の島囃子にはチャルメラさえ加わる。しかし、小編成の例もある。北九州市の小倉(こくら)祇園囃子では笛がなく、太鼓と摺鉦(すりがね)で軽快に奏でる。石川県輪島市の御陣乗(御神事)太鼓は太鼓だけである。なお、例外的であるが、富山県高岡市の御車山(みくるまやま)では素朴ながら雅楽曲になぞらえた曲を奏している。

[西角井正大]

『吉川英史監修・藤本寿一構成『神々の音楽』(1976・東芝EMI)』『西角井正大著『祭礼と風流』(1985・岩崎美術社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「祭囃子」の意味・わかりやすい解説

祭囃子
まつりばやし

祭礼の際,神輿 (みこし) に従って,山鉾 (やまぼこ) ,山車 (だし) ,屋台 (やたい) ,楽車 (だんじり) などの上で囃す音楽。もともと神を迎えるための乱声 (らんじょう) の一種であったと考えられ,江戸時代に入って,祭礼が風流 (ふりゅう) 化するとともに,祭りをにぎやかにするという機能をもつようになった。京都の祇園囃子がその原型といわれ,各地の祭囃子に影響を与えた。東京の葛西 (かさい) 囃子,大阪のだんじり囃子,秋田の飾山 (おやま) 囃子などが有名。

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百科事典マイペディア 「祭囃子」の意味・わかりやすい解説

祭囃子【まつりばやし】

祭の山鉾(やまぼこ)や山車(だし),屋台などの上で奏される囃子。人の動きをそろえはやし,また祭全体をはやす。踊りや所作などがつくこともあるが,囃子が主体。笛と各種の太鼓,鉦(かね)などを使う。京都の祇園(ぎおん)囃子が起源という。
→関連項目囃子

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