浄土真宗の異端の一つ。秘密裏に伝受するためこの称がある。親鸞の子善鸞が東国の真宗信者に対して,親鸞から夜中ひそかに真実の教えを伝受されたと称したことに発するといわれる。南北朝時代に越前の大町如道は不拝秘事を唱えてこれを秘事法門と呼び,北陸を中心に広く普及するにいたった。これからはさらに一益(いちやく)法門,不拝義,善知識だのみなどの異義が派生した。江戸時代に入って邪宗邪義の禁圧がはげしくなると,土蔵(おくら)秘事,隠し念仏などと称して,地下潜行的な秘密結社となった。1663年(寛文3)紀伊国黒江の作太夫が十劫秘事を説いて追放に処せられ,1711年(正徳1)ごろには美濃国加納の玄竜寺を中心に秘事が行われ,東西両本願寺の手によって処理された。54年(宝暦4)には仙台藩水沢の秘事の徒が処刑され,翌年には京都の秘事,94年(寛政6)にも京都,大坂で秘事が発覚している。明治以後もこの種の法門は各地に伝搬して,現代へと伝えられている。
→異安心
執筆者:千葉 乗隆
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浄土真宗における異端の代表的なものの一つ。古来の伝承では、親鸞(しんらん)の子善鸞(ぜんらん)が夜中ひそかに父から1人伝授されたと称して、親鸞の弟子たちの間に疑惑と分裂をおこし、親鸞から義絶されるに至った異義に拠(よ)るとされ、本願寺3世覚如(かくにょ)と交際のあった越前(えちぜん)国(福井県)大町の如道(にょどう)がこの法門を唱えたといわれている。しかし如道の著作からは、彼が秘事法門を唱えたという確証は出てこない。とくに北陸方面に盛行していたが、本願寺中興の蓮如(れんにょ)が真宗の異端としてもっとも力を注いで批判攻撃したのは、この秘事法門であった。この法門には、信心を得ればこの世で成仏(じょうぶつ)できるとする一益(いちやく)法門とか、信心を得れば成仏するのだから別に仏像などいっさい拝む必要がないとする不拝義とか、善知識(師、坊主)を頼むことによって往生(おうじょう)が決定(けつじょう)すると説く善知識頼みとか、十劫正覚(じっこうしょうがく)の昔からわれわれの往生を弥陀(みだ)が約束したという十劫秘事のほか、隠れ念仏、土蔵(おくら)秘事などがあった。
[松野純孝]
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…〈十劫安心〉〈一念覚知〉など観念系異安心に真言密教の形式をとり入れたもので,北陸を中心に広く普及した。これを秘事法門という。本願寺中興の祖蓮如は,北陸開教に当たって,如道系の異義と対決し,西国布教に際しては,仏光寺系の異義を対破しなければならなかった。…
…その後の実態は把握しがたいまま,近代に至っている。なお,隠し念仏と同類のものに秘事法門がある。同じく秘密保持を重んじ,真宗教義に仮託して真言密教や邪義とされる立川流などを混じ,即得往生を説く。…
※「秘事法門」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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