稲城(読み)イナキ

デジタル大辞泉 「稲城」の意味・読み・例文・類語

いな‐き【稲城】

《「いなぎ」とも》
古代、家の周囲に稲を積み上げて敵の矢を防ぐ備えとしたもの。
稲束を貯蔵する小屋 秋》

いなぎ【稲城】

東京都中南部、多摩川沿岸の市。ナシ産地住宅地化が進む。人口8.5万(2010)。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「稲城」の意味・読み・例文・類語

いな‐き【稲城】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「いなぎ」とも )
  2. 上代、敵に急襲された場合など、わらの束を家の周囲に積み上げて胸壁とし、矢や石などを防いだもの。後世、城の意にも用いた。
    1. [初出の実例]「其の王、稲城(いなき)を作りて待ち戦ひき」(出典:古事記(712)中)
  3. 稲束を積み置き、貯蔵する小屋。
    1. [初出の実例]「彼(かの)番作田(ばんさくた)の稲城(イナキ)とせん」(出典:読本・南総里見八犬伝(1814‐42)三)

稲城の補助注記

古事記伝」に師説を引用し、稲を置く所は盗難予防などのため、垣、みぞを構築して固く構えたところから、堅固な備えのある意で、比喩的表現と解している。


いなぎ【稲城】

  1. 東京都中南部の地名。多摩川中流の南岸から多摩丘陵にまたがり、住宅地の開発が進む。多摩川ナシの産地。昭和四六年(一九七一)市制。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「稲城」の意味・わかりやすい解説

稲城(市)
いなぎ

東京都中南部、多摩川中流南岸の低地から多摩丘陵にまたがる市。1971年(昭和46)南多摩郡稲城町が市制施行して成立し、これによって南多摩郡は消滅した。JR南武線、京王電鉄相模原(さがみはら)線が通じる。北部は多摩川の氾濫原(はんらんげん)で、古くから稲作農業地帯であったこと、また中世に稲毛郷の一部だったことが地名の由来といわれる。相模国と武蔵(むさし)府中(東京都府中市)を結ぶ川崎街道沿いにあり、矢野口(やのくち)は新田義興(にったよしおき)が殺された矢口ノ渡(わたし)であったと伝えられる。低地は多摩川ナシの産地で知られ、ブドウも栽培される。市域の大半は多摩丘陵にある。日中戦争から第二次世界大戦にかけて東京第二陸軍造兵廠(しょう)火工廠多摩火薬製造所が設立、拡充され、戦後はアメリカ軍の多摩弾薬庫となり、現在はアメリカ軍のレクリエーション施設となっている。市域には多くのゴルフ場がつくられたが、西に接する多摩市に続く多摩ニュータウンの一部として1970年代から住宅地開発が進められている。1988年向陽台地区が入居開始、1995年(平成7)長峰地区が入居開始された。1960~1980年代に製造業が進出、電気機器などの工業が立地している。石仏が安置された弁天洞窟(べんてんどうくつ)がある。レジャーランドの「よみうりランド」は大部分が川崎市域であるが、本社は稲城市にあり、川崎市側の敷地の一部が稲城市の飛地となっている。京王よみうりランド駅からゴンドラが通じている。面積17.97平方キロメートル、人口9万3151(2020)。

[沢田 清]

『『稲城市郷土資料集1~4』(1974~1976・稲城市役所)』『『稲城市史』(1991・稲城市)』


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「稲城」の意味・わかりやすい解説

稲城[市] (いなぎ)

東京都南西部,多摩川南岸の都市。西は多摩市,南東は川崎市,北は多摩川を隔てて府中市,調布市と接する。1971年市制。人口8万4835(2010)。多摩川沿いの低地とゆるやかな丘陵とからなる。第2次世界大戦前は静かな農村で,低地は水田のほかに元禄年間(1688-1704)から梨栽培も行われ,現在も観光梨園を中心に梨畑がある。丘陵部には1941年,陸軍火工厰が設けられ,戦後はアメリカ軍の施設として接収されたこともあって,開発が遅れている。多摩川原橋,是政橋で対岸と結ばれ,市内多摩川沿いをJR南武線が走るほか,74年に多摩センター駅まで開通した京王相模原線が丘陵部を通過,駅も設けられたため,都心との時間距離が短縮され,住宅地化が進んでいる。丘陵部の約380haは多摩ニュータウン開発地区に編入され,住宅地開発が進められている。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

百科事典マイペディア 「稲城」の意味・わかりやすい解説

稲城[市]【いなぎ】

東京都南部の市。1971年市制。多摩川南岸を占め,多摩丘陵と多摩川の氾濫(はんらん)原にまたがる。多摩川ナシの主産地で,近年は観光ナシ園が増加している。南武線,京王相模原線が通じる。南部の多摩丘陵は1960年代に始まった多摩ニュータウンの東部にあたり,住宅地化が進んだ。17.97km2。8万4835人(2010)。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「稲城」の意味・わかりやすい解説

稲城
いなき

稲を積んで造る柵の意という。『古事記』垂仁天皇の条,『日本書紀』垂仁天皇5年の条,雄略天皇 14年の条,崇峻天皇即位前の条などにみえる。稲を積んで諸事態にそなえた砦とも考えられる。稲置 (いなぎ) との関係は不明。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

デジタル大辞泉プラス 「稲城」の解説

稲城

東京都稲城市で生産される早生の赤ナシ。600グラム以上の大玉になるものもある。果肉は柔らかで糖度が高い。稲城市東長沼の生産者、進藤益延氏が「新高」と「八雲」の交配により作出。「稲城の梨」は地域団体商標。

出典 小学館デジタル大辞泉プラスについて 情報

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android