修験者,遊行者が法具,仏像,経文,衣類などを納めて背負い歩く箱。遺例は室町時代以後のもので,形式は板笈と箱笈に大別される。板笈は,背負子(しよいこ)を改良し,枠を組んで板をはり,背板に品物を縛りつけて檀板でしめ,反対側に背負い紐をつけたもの。箱笈は,縦長の四角い箱に短い4本足をつけたものである。高野山笈は,この中間型で,竹製3本足である。箱笈には,金銅装笈,彫木彩漆笈,網代笈の種類がある。修験者の入峰修行に際しては,正先達,新客それぞれの用いる笈が異なり,駈出・駈入には笈渡しの儀礼が行われ,笈を背負った姿は母胎に抱かれた姿をあらわす,といったような各種の意味付けが加えられている。
執筆者:鈴木 正崇
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「負い」と同義。書籍、経巻、仏具、衣服、食器などを入れて背負って歩く道具。現在の背嚢(はいのう)、ランドセル、リュックサックのようなもの。笈の字が竹冠(たけかんむり)であることや平安時代の『倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』で笈を「ふみはこ」と読ませることなどから、古くは書籍を納める竹製の道具であったことが推察される。すでに『源氏物語』や『うつほ物語』などにも盛んにみられるところから、平安時代には使用されていたことが知られる。現存する笈は、そのほとんどが行脚僧(あんぎゃそう)、修験者(しゅげんじゃ)などが旅をするときに用いたもので、竹製のものや木製のものが多い。その形はつづらに似て四隅に脚のある箱形で、開閉用の戸をつけ、綱で背負うようにしたものである。なお、笈を背負うときに着る衣を笈摺(おいずり)という。
[宮本瑞夫]
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… 鎌倉・室町時代にはこの修験道の山伏たちは,吉野,熊野,白山,羽黒,彦山(英彦山)などの諸山に依拠し,法衣,教義,儀礼をととのえていった。歌舞伎の《勧進帳》などで広く知られる鈴懸(すずかけ)を着,結袈裟(ゆいげさ)を掛け,頭に斑蓋や兜巾(ときん)(頭巾),腰に螺(かい)の緒と引敷,足に脚絆を着けて八つ目のわらじをはき,笈(おい)と肩箱を背負い,腕にいらたか念珠をわがね,手に金剛杖と錫杖(しやくじよう)を持って法螺(ほら)貝を吹くという山伏の服装は,このころからはじまった(図)。またこうした法衣は教義の上では,鈴懸や結袈裟は金剛界と胎蔵界,兜巾(頭巾)は大日如来,いらたか念珠・法螺貝・錫杖・引敷・脚絆は修験者の成仏過程,斑蓋・笈・肩箱・螺の緒は修験者の仏としての再生というように,山伏が大日如来や金胎の曼荼羅(両界曼荼羅)と同じ性質をもち,成仏しうることを示すと説明されている。…
※「笈」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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