宝亀元年(七七〇)大伴孔子古によって創建されたと伝え、「粉河寺大率都婆建立縁起」によると狩人孔子古が谷間に光明を発する霊地を見付け庵を営んだが、ある日一人の童男行者が孔子古を訪れ、七日間庵にこもり千手観音像を作って与えた。孔子古は姿を消した行者が観音の化身であることを知り、殺生をやめ深く仏法に帰依したという。孔子古が精舎を建立した地は、同縁起に「踟東西、適到一澗川、随流尋行間、河水甚白、俄如流米粉、忽然得悟、即知此地、遂入林中、得一草堂」と記される。河内国
なお「三代実録」貞観一四年(八七二)八月一三日条に「紀伊国那賀郡人左少史正六位上伴連貞宗、父正六位上伴連益継等、改本居貫隷右京」とある益継・貞宗父子が「粉河寺縁起」に記される粉河寺別当系譜と一致することや、大和朝廷における大豪族大伴氏の一支族と思われる豪族が
延暦年間(七八二―八〇六)に孔子古の子船主が
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和歌山県紀の川市の旧粉河町にある寺。山号は風猛山(かざらきさん)(古くは補陀落山とも号す)。天台宗三井寺,ついで延暦寺末。現在は粉河観音宗の本山。本尊は秘仏の千手観音。西国三十三所第3番札所。770年(宝亀1)大伴孔子古(くじこ)の創建と伝えられ,創建の事情と本尊の化身童男行者の霊験談が《粉河寺縁起》(国宝,鎌倉前期)の主題をなしている。《延喜式》には定額寺として所見する。《枕草子》194段〈寺は〉にその名が記され,藤原頼通が参詣し,《新猿楽記》や《梁塵秘抄》の今様歌にあらわれ,平維盛も参詣するなど,平安時代以来,観音の聖地として,また浄土信仰の高まりとともに観音浄土のほか弥勒浄土の聖地としても,貴賤の信仰をあつめた。平安時代後期には埋経供養も盛んに行われ,境内から経筒も出土している。中世では足利尊氏の生母果証院が当寺観音を信仰して尊氏を生んだといわれ,尊氏母子の信仰が著名である。中世末には山内に550坊があったといわれ,なかには心地覚心の高弟至一が誓度院をおこすなど禅宗への傾斜を示すものもあり,また当寺で《済民記》の開板が行われるなど文化活動も盛んであった。一方行人を中心とする僧兵の活躍も顕著で,戦国時代には,根来寺僧兵とならんで,泉州方面に活躍したが,1585年(天正13),豊臣秀吉によって,根来寺とともに焼討ちされた。近世には紀州徳川家の助成を受けたが,平安時代以来の寺領であった周辺諸村が,大伴孔子古の末裔と伝えられる方衆座(ほうじゆうざ)を中心に,近世にもたびたびあった火災後の復興をたすけ,さらに西国三十三所札所としての衆庶の幅広い信仰に支えられて,現在にいたっている。御詠歌〈ちちははの めぐみもふかき こかわでら ほとけのちかい たのもしのみや〉は浄瑠璃《傾城阿波の鳴門》に挿入されていることも,当寺の信仰を物語る。〈たのもしのみや〉(粉河産土神社)は境内の鎮守社。その祭礼粉河祭は,中世以来の伝統を伝える。
執筆者:熱田 公
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和歌山県紀の川市粉河にある寺。風猛山(ふうもうざん)粉河寺と称するが、本来は補陀落山(ふだらくさん)施音寺(せおんじ)という。西国(さいごく)三十三所第3番札所。もとは天台宗であったが、現在は粉河観音(かんのん)宗。縁起によれば、770年(宝亀1)、観音の化身である童男(どうなん)行者が現れて刻した千手千眼観世音菩薩(かんぜおんぼさつ)(本尊)を、発願者の大伴孔子古(おおともくじこ)が草庵(そうあん)を結んで安置したのが開創という。鎌倉時代には七堂伽藍(がらん)、550坊、寺領4万石を有し、数千人の僧徒がいて隆盛を極めた。しかし1585年(天正13)の豊臣(とよとみ)秀吉の兵乱によって堂塔伽藍、寺宝のほとんどを焼失した。1619年(元和5)紀伊藩主徳川頼宣(よりのぶ)の助力を得て天海(てんかい)の弟天英が再興した。現在の大門、童男堂、中門などは徳川中期のものである。庭園は桃山時代の枯山水(かれさんすい)の石庭で、国指定名勝となっているほか、大和絵(やまとえ)画家の冷泉為恭(れいぜいためちか)が潜居した御池坊(本坊)の庭園、左甚五郎作という「門前の虎(とら)」などがある。寺宝の『粉河寺縁起』は国宝に指定されている。そのほか鬼子母神立像、不動明王坐像(ざぞう)など寺宝は多い。
[中山清田]
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