デジタル大辞泉 「行人」の意味・読み・例文・類語
ぎょう‐にん〔ギヤウ‐〕【行人】
2 比叡山延暦寺の
3 高野山で、山中で修行する者。また、高野
4 近世の
苦行をする人の意で、行者と同じであるが、行者が苦行の結果の霊力で人のために加持祈祷(かじきとう)するのに対し、行人は苦行そのものによって神や仏に奉仕する。修験道(しゅげんどう)の山にはこのような行人がいて、堂舎に花を献じ、閼伽(あか)(水)と香を供えた。高野山(こうやさん)の行人はその代表的なものであり、やがて武力も蓄えるようになった。比叡山(ひえいざん)の行人は夏衆(げしゅ)(花衆)とか堂衆(どうしゅ)とかよばれて回峰行(かいほうぎょう)を行ったが、平安末期から僧兵化して学生(がくしょう)(学侶(がくりょ))を圧倒した。すなわち、行人は苦行によって罪穢(つみけがれ)を滅ぼして、神仏に仕えるという職能を忘れて、暴力化したのである。しかし、このような行人がなければ、外敵や武士の侵略から一山を守ることができないので、寺はその自由を許し、荘園(しょうえん)の経営を任せた。比叡山の日吉(ひえ)社の神人(じにん)も行人である。特殊な行人に出羽(でわ)三山の行人があり、一世(いっせ)行人ともよばれて、1000日、2000日の苦行ののち、断食(だんじき)断水によって即身成仏(そくしんじょうぶつ)する誓願をたてた。そして実際に即身仏となった例が湯殿山(ゆどのさん)の行人から出た。
[五来 重]
修行者というのが本来の語義であるが,諸堂の管理(堂預,鍵預など)や供華点灯をはじめ,炊事,給仕など寺院において世俗的な雑務に従事する僧侶を指す。したがって,その名称は職掌に応じて多様で,承仕(じようじ),夏衆(げしゆう)(花衆),花摘,道心,堂衆(どうじゆ),長床衆(ながとこしゆう)などとも呼ばれた。半僧半俗の者が多く,寺内にあっては,学侶(がくりよ)より一段下位とされていた。山伏,優婆塞(うばそく)のいわゆる修験者はこの行人の中に属しており,僧兵もおもにこの行人をもって構成され,中央への強訴や年貢の徴収にあたるなど武力を行使する場合もあった。中世以来,寺院内における地位の向上と組織化によって,学侶と対抗して紛争を起こすことも多かった。
執筆者:和多 秀乗
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…いわゆる〈修善寺の大患〉で,《思ひ出す事など》(1910‐11)はこの体験のすぐれた結晶である。この後,《彼岸過》(1912),《行人(こうじん)》(1913),《こゝろ》(1914)で人間の孤独と〈我執〉を追求する深刻な作風を示した。晩年の漱石は,自伝的小説《道草》(1915)で過去の自己を俎上に,その意味を問い,《明暗》(1916)で老練な作家的技量を駆使した最大の長編を書きすすめたが,胃潰瘍の発作のため未完のまま永眠した。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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