デジタル大辞泉
「行人」の意味・読み・例文・類語
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こう‐じんカウ‥【行人】
- [ 1 ] 〘 名詞 〙
- ① 道を行く人。旅をしている人。また、世路をあゆむ人。
- [初出の実例]「行人一生裏、幾度倦二辺兵一」(出典:懐風藻(751)奉西海道節度使之作〈藤原宇合〉)
- 「道を急ぐ行人も馬より下て是に跪づき」(出典:太平記(14C後)五)
- [その他の文献]〔易経‐无妄卦〕
- ② 使者。
- [初出の実例]「庸調運脚者、量二路程遠近、運物軽重一、均出二戸内脚一
二資行人労費一」(出典:続日本紀‐養老四年(720)三月己巳)
- ③ 賓客の接待をつかさどる官の中国風の呼び名。
- [初出の実例]「国家故事。蕃客朝時。択二通賢之倫一。任二行人之
一。礼遇之中。賓主闘レ筆」(出典:本朝文粋(1060頃)二・封事三箇条〈菅原文時〉) - [その他の文献]〔春秋左伝‐文公四年〕
- ④ 出征兵士。〔杜甫‐兵車行〕
- [ 2 ] 小説。夏目漱石作。大正元年~二年(一九一二‐一三)発表。互いを理解しえない夫婦生活を通して、主人公の孤独な魂の苦悩を描く。
ぎょう‐にんギャウ‥【行人】
- 〘 名詞 〙
- ① 修行者。行者(ぎょうじゃ)。
- [初出の実例]「書を授くとは、新に種子を重ね、行人の宗智を加ふるなり」(出典:日本霊異記(810‐824)下)
- 「日蔵が師也ける行人(ぎゃうにん)は〈略〉遙に深き山の奥に入て仏法を修行して」(出典:今昔物語集(1120頃か)一四)
- ② 特に、比叡山延暦寺の堂衆(どうじゅ)。
- [初出の実例]「堂衆と申は、学生の所従也ける童部が法師になったるや、若(もし)は中間法師原にてありけるが、〈略〉近年行人とて、大衆をも事共せざりしが、かく度々の戦にうちかちぬ」(出典:平家物語(13C前)二)
- ③ 高野山の僧で、密教修学のかたわら、大峰(おおみね)、葛城(かつらぎ)などの山々を修練、行法する者。また広義には、行人方(ぎょうにんがた)をいう。
- [初出の実例]「弐千石 ぎゃう人弐千人、一人に壱石宛」(出典:高野山文書‐文祿三年(1594)三月三日・豊臣秀吉朱印状)
- ④ 乞食僧。
- [初出の実例]「一 出家山伏行人願ん人町家宿貸候はば」(出典:徳川禁令考‐前集・第五・巻四八・寛文二年(1662)九月一八日)
- ⑤ 富士詣でをする人。
- [初出の実例]「富士詣〈略〉その人を行人或は道者といふ」(出典:俳諧・俳諧歳時記(1803)上)
おこない‐びとおこなひ‥【行人】
- 〘 名詞 〙
- ① 仏道を修行する人。修行者。おこないと。
- [初出の実例]「池辺直氷田を遣はして、四方(よも)に使はして、修行者(オコナヒひト)を訪(と)ひ覔(もと)めしむ」(出典:日本書紀(720)敏達一三年是歳(前田本訓))
- ② 仙術を行なう人。道士。
- [初出の実例]「山中に曚雲国師(もううんこくし)といふ一人の道士(オコナヒビト)在(ゐま)すなり」(出典:読本・椿説弓張月(1807‐11)前)
ゆく【行】 人(ひと)
- ① 道行く人。たびびと。行人(こうじん)。
- [初出の実例]「ゆくひともとまるも袖の涙がはみぎはのみこそぬれまさりけれ」(出典:土左日記(935頃)承平五年一月七日)
- ② 冥土へ行く人。死者。
- [初出の実例]「行人は浄土の春の花見哉」(出典:俳諧・犬子集(1633)二)
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
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行人
ぎょうにん
苦行をする人の意で、行者と同じであるが、行者が苦行の結果の霊力で人のために加持祈祷(かじきとう)するのに対し、行人は苦行そのものによって神や仏に奉仕する。修験道(しゅげんどう)の山にはこのような行人がいて、堂舎に花を献じ、閼伽(あか)(水)と香を供えた。高野山(こうやさん)の行人はその代表的なものであり、やがて武力も蓄えるようになった。比叡山(ひえいざん)の行人は夏衆(げしゅ)(花衆)とか堂衆(どうしゅ)とかよばれて回峰行(かいほうぎょう)を行ったが、平安末期から僧兵化して学生(がくしょう)(学侶(がくりょ))を圧倒した。すなわち、行人は苦行によって罪穢(つみけがれ)を滅ぼして、神仏に仕えるという職能を忘れて、暴力化したのである。しかし、このような行人がなければ、外敵や武士の侵略から一山を守ることができないので、寺はその自由を許し、荘園(しょうえん)の経営を任せた。比叡山の日吉(ひえ)社の神人(じにん)も行人である。特殊な行人に出羽(でわ)三山の行人があり、一世(いっせ)行人ともよばれて、1000日、2000日の苦行ののち、断食(だんじき)断水によって即身成仏(そくしんじょうぶつ)する誓願をたてた。そして実際に即身仏となった例が湯殿山(ゆどのさん)の行人から出た。
[五来 重]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
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行人 (ぎょうにん)
修行者というのが本来の語義であるが,諸堂の管理(堂預,鍵預など)や供華点灯をはじめ,炊事,給仕など寺院において世俗的な雑務に従事する僧侶を指す。したがって,その名称は職掌に応じて多様で,承仕(じようじ),夏衆(げしゆう)(花衆),花摘,道心,堂衆(どうじゆ),長床衆(ながとこしゆう)などとも呼ばれた。半僧半俗の者が多く,寺内にあっては,学侶(がくりよ)より一段下位とされていた。山伏,優婆塞(うばそく)のいわゆる修験者はこの行人の中に属しており,僧兵もおもにこの行人をもって構成され,中央への強訴や年貢の徴収にあたるなど武力を行使する場合もあった。中世以来,寺院内における地位の向上と組織化によって,学侶と対抗して紛争を起こすことも多かった。
執筆者:和多 秀乗
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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普及版 字通
「行人」の読み・字形・画数・意味
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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世界大百科事典(旧版)内の行人の言及
【夏目漱石】より
…いわゆる〈修善寺の大患〉で,《思ひ出す事など》(1910‐11)はこの体験のすぐれた結晶である。この後,《彼岸過
》(1912),《行人(こうじん)》(1913),《[こゝろ]》(1914)で人間の孤独と〈我執〉を追求する深刻な作風を示した。晩年の漱石は,自伝的小説《道草》(1915)で過去の自己を俎上に,その意味を問い,《[明暗]》(1916)で老練な作家的技量を駆使した最大の長編を書きすすめたが,胃潰瘍の発作のため未完のまま永眠した。…
※「行人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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