改訂新版 世界大百科事典 「約法」の意味・わかりやすい解説
約法 (やくほう)
yuē fǎ
中華民国時期に制定された暫定的な基本法。中華民国臨時約法(旧約法),中華民国約法(新約法),中華民国訓政時期約法の三つがある。〈中華民国臨時約法〉は辛亥革命時期に臨時参議院の約法起草会議で起草され,1912年3月11日臨時大総統袁世凱の名で公布された。7章56条から成り,正式憲法制定まで憲法と同等の効力を持つとされ,おもな内容は,(1)主権は国民全体に属す,(2)人民は居住・移転・財産・言論・出版・集会・結社・信教などの自由権と選挙権・被選挙権を有する,(3)一院制としての参議院に,臨時大総統・国務員に対する弾劾権,臨時大総統の権限の一部に対する同意権を与える,(4)臨時大総統は参議院により選挙される,など。制定の動機は,孫文ら革命派が臨時大総統袁世凱の権限をできるだけ縮小しようとしたところにある。14年5月中華民国約法の公布によりその効力を中断されたが,16年6月再び発効し23年10月まで続いた。〈中華民国約法〉は袁世凱が専制支配を合法化するため14年1月国会を実力により不法に解散させたのち,約法会議で制定され5月1日公布。10章68条から成り,臨時約法に比べて基本的人権に対する保障が弱められ,大総統の権限が著しく強化された。袁世凱の独裁体制の樹立に役立ったが,15年12月12日袁世凱が帝位を称するまで効力を保ったのち,消滅した。〈中華民国訓政時期約法〉は31年5月国民政府主席蔣介石が立法院院長胡漢民の反対を押し切って召集した国民会議で制定され,6月1日公布。8章89条から成り,訓政時期における〈以党治国〉の原則を明示し,立法・行政・司法・考試・監察の5院を設け,三民主義を教育の根本原則とし,国民政府主席の権限を拡大するなど,党中央の指導権を強め中央集権化傾向を増大させた。蔣介石がその政治的地位を強化するために制定したものといえる。47年1月1日中華民国憲法が公布されるまで存続した。
執筆者:藤井 昇三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報