改訂新版 世界大百科事典 「累帯構造」の意味・わかりやすい解説
累帯構造 (るいたいこうぞう)
zonal structure
zoning
鉱物の化学組成は,一定の規則性を保ちつつある範囲内で変化することができるものが多い。このとき鉱物は固溶体をつくるという。またある一つの鉱物の粒の中でも,化学組成に関して一様でないことがある。鉱物中の化学組成が,空間的に不規則に変化するのではなく,鉱物粒の中心部から周縁部に向かって変化しているとき,その非均質性のことを鉱物の累帯構造という。この原因は鉱物(結晶)中の原子の拡散速度が非常に遅いことにある。ある鉱物に関して,その置かれた温度,圧力,(もし存在すれば)共存するマグマや水溶液などの液体や気体の化学組成をかりに環境と呼ぶこととする(気体や液体中の拡散は固体中にくらべてはるかに速いので,このように考えてもさしつかえない)。環境が変化した場合,一般に新しい環境における新しい平衡状態を達成するべく,その鉱物の化学組成は変化するはずである。この変化が実際に起こるためには,鉱物中を原子が移動する,つまり拡散することが必要である。この速度が遅く,環境の変化する速度に追いつけない場合,周縁部の化学組成は新しい環境に対応して変化することができるが,内部は対応できない。その結果として累帯構造が生ずる。火成岩中の鉱物の場合,マグマから初期に比較的高温で晶出した部分が内側に,末期に低温で晶出した部分が周縁部に存在するのが普通であり,それぞれ化学組成が異なっている。もし拡散が十分速ければ,不均質性は直ちに消失してしまって残っていないはずである。
鉱物の累帯構造は,火成岩,変成岩中の固溶体をつくる鉱物に普通にみられるものである。累帯構造を詳しく調べることにより,鉱物の環境変化の歴史をたどることが可能であり,そのような目的の研究が岩石学,鉱物学,鉱床学などの分野で行われている。
執筆者:中村 保夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報