震源から伝わる地震波には、秒速約7キロの初期微動(P波)と、秒速約4キロの主要動(S波)がある。強い揺れで被害をもたらすのはS波。気象庁は、早く伝わるP波を観測して震源や地震の規模を推定し、S波到達前にスマートフォンの防災関連アプリやテレビなどを通じて危険が迫っていることを速報する。
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出典 共同通信社 共同通信ニュース用語解説共同通信ニュース用語解説について 情報
大きな地震が発生したとき、地震の揺れが始まったばかりでまだ揺れが小さい地域、あるいは震源から離れていてまだ揺れが伝わっていない地域を対象に、まもなく強い揺れが始まることをあらかじめ警告する情報。日本では気象庁が2007年(平成19)10月から運用を開始し、発表されるようになった。気象庁が発表する予報や警報の一つと位置づけられている。
地震が発生すると震源から地震波が四方八方に伝わる。地震波の伝わる速さは、地震波の種類により異なっている。もっとも速く伝わるのはP波とよばれる縦波で、地表近くでは毎秒約7キロメートルの速度で伝わっていく。後に続くS波とよばれる横波は、毎秒約3~4キロメートルの速度でP波よりはゆっくりと伝わっていき、その到着時間差は、震源から遠くなるほど大きくなる。地震による揺れはP波に比べS波のほうがずっと大きく、被害を生ずるような強い揺れはほとんどS波によるものである。S波が伝わる前に震源に近い観測点の地震計でとらえたP波をすばやく解析して、地震の震源の位置や、地震の規模が推定できると、S波の揺れの強さを予想し、強い揺れが始まる前に警告を発することができ、強い揺れに備えることが可能となる。これが緊急地震速報の原理である。
警告を発してから強い揺れが始まるまでの時間はリードタイムとよばれ、P波とS波の到着時間差が大きくなるほど、つまり震源からの距離が離れるほど大きくとることができる。たとえば震源から100キロメートルくらい離れた場所では、P波が伝わってからS波が到達するまで約10秒の時間的余裕が生まれる。このように緊急地震速報は、あくまで地震が発生した後に発表される情報で、あらかじめ地震の発生を予測しようとする地震予知とは異なる。緊急地震速報のアイデアは1970年(昭和45)前後に生まれたものであるが、観測点の地震計で観測された信号を伝送して一か所に集め、多数の観測点の信号を電子計算機で同時並行して実時間で処理する必要があった。高信頼度のデジタルの高速データ通信網の整備や、電子計算機の能力の向上などの環境が整い、このアイデアが実現するまで30年以上の歳月を必要とした。
緊急地震速報は、観測点から送られてきた地震計の信号の解析から、速報の発表までをまったく人手を介さず自動的に行う点が、それまでの情報とは異なる特徴である。また緊急地震速報を利用して災害を防ぐには、緊急地震速報を受信し、運行されている電車に自動的にブレーキをかけたり、ビルのエレベーターを自動停止させるなど、人手を介さない安全システムの整備が求められる。また一般住民に一刻も早く強い揺れに備えてもらうために、テレビ・ラジオからの放送だけでなく、専用の受信機、携帯電話などさまざまな伝達方法が必要とされ開発が行われている。
緊急地震速報を早く発表するためには、できるだけ少ない観測点の信号を短時間に解析する必要がある。一方、解析の精度と信頼度を高めるためには、多くの観測点の信号をじっくり解析する必要がある。このように精度と発表の速さは相反する要求であり、速報の効果を最大限にするためにはくふうが必要である。また、地震計の信号にノイズが入ったり、ほぼ同時に離れた場所でおきた地震の信号を間違えて一つの地震と判断すると、実際の揺れより大きな揺れを予想する場合もあり、技術的な改良の課題となっている。
気象庁から発表される緊急地震速報は、あまり小さい地震には発表を行わないが、2点以上の観測点で地震が観測され、予想される最大の揺れが震度5弱より小さい場合は予報として、震度5弱以上が予想される場合は警報として、震度6弱以上が予想される場合には特別警報として発表される。
緊急地震速報は、数秒おきに繰り返し解析が行われるので、時間がたち、解析に用いることのできる観測点の数と地震波形が多くなるほど、予測の精度がよくなる。震源から遠い地域では、多少遅い情報でもまにあうので、地震が観測されてから約1分後まで、繰り返し解析が行われ、数秒おきに内容が更新される仕組みとなっている。
[浜田信生]
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(阿部勝征 東京大学教授 / 2007年)
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