警察官がいわゆる挙動不審者を停止させ,質問すること。その対象となるのは,異常な挙動その他服装,携帯品,時間,場所など周囲の事情から合理的に判断して,罪を犯しまたはこれから罪を犯そうとしていると疑われる者,およびすでに行われた犯罪または犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者で(警察官職務執行法2条),質問は通常,行先や用件から住所,氏名,年齢,職業,さらに所持品の内容などに及ぶこともある。なおその場で質問することが本人に不利であり,または交通妨害になると認められる場合には近くの警察署,派出所等への同行を求めることができる。職務質問は警察官による犯罪の探知および未然の防止の有効な手段として街頭などで日常的に行われており,質問から犯人逮捕に至る例もある。他方,憲法の保障する人身の自由の要請から,法は旧憲法下の〈不審訊問〉にあった強制の要素を払拭(ふつしよく)し,対象者の任意の協力を前提としており,強制的な停止,質問,連行は許されない。しかし対象者に協力を求めて説得することは許されると解されている。ただ,説得と強制,ないし実力の行使との区別は微妙であり,質問の適法性が問題となることも少なくない。また質問が対象者の所持品に及び,その提示を求める説得が功を奏さない場合,承諾なしに職務質問に伴う所持品検査ができるかについては争いがある。最高裁判所は,承諾のない場合でも,検査の必要性,緊急性,害される個人の利益と公共の利益の権衡を考慮して捜索に至らない程度の行為は,強制にわたらない限り許される場合もあるとしている。
→警察官職務執行法
執筆者:酒巻 匡
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して、なんらかの犯罪を犯し、もしくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者、または、すでに行われた犯罪について、もしくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者を、停止させて質問することができる(警察官職務執行法2条)。この質問を職務質問という。職務質問は、相手方の同意に基づく任意のものであり、強制権はなく、身柄を拘束したり、相手方の意思に反して連行したり、答弁を強要することは許されない。しかし、ある程度の停止の要求、すなわち、相手方に停止しようという意思をもたせようとする程度の要求で、注意を促したり、意思の変更を促すために、単に身体の一部に手をかける程度のことは、強制にわたらない限り許され、その方法が一般的にみて妥当であると認められる程度のものは適法と解されている。
[石川幸夫]
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