メタボリックシンドロームとは、食べすぎ、運動不足などの不健康な生活習慣を続けることで、腸のまわりに内臓脂肪が過剰に蓄積し、この内臓脂肪から悪玉生理活性物質(アディポサイトカイン)が多く分泌されたり、善玉の生理活性物質(アディポネクチン)が減少することにより、高血圧、脂質異常、高血糖が生じた状態をいいます。
メタボリックシンドロームは、これまでの健診の考え方と根本的に異なります。これまでは、検査の数値の異常度で評価してきました。つまり、中性脂肪は200㎎/㎗より400㎎/㎗のほうが重症という値の高低を問題としていました。メタボリックシンドロームでは、正常範囲(基準範囲)を超える項目がいくつ存在しているのかを問題とします。これまでは「軽度」(レベル1)の異常はいくつあっても、軽度の異常ということで重要視されていませんでした。しかし、それぞれが軽度の異常であっても3つ、たとえば腹囲、高血糖、高血圧と3つそろえば1+1+1となり、これが単独のレベル3の異常(重症)に匹敵することがわかってきたのです。
男性の肥満者が増加しています(図9)。
美味しいものを食べ、動かずにテレビを見ながらごろごろしていたい。さらに自由時間も、趣味を楽しむ時間も減ってストレスが増える一方です。これらは複合的に影響して、内臓脂肪がたまって肥満となります。
メタボリックシンドロームの該当者とは、内臓脂肪型肥満(腹囲が男性 85㎝以上、女性90㎝以上)に加え、高血糖、脂質異常、高血圧の3つのうち2つ以上を合併した状態で、予備群とは内臓脂肪型肥満に加えて3つのうち1つを合併した状態です(図10)。
メタボリックシンドロームの該当者・予備群は複数のリスクが重なることにより、心筋梗塞や脳卒中を発症する可能性が非常に高くなるとされています。メタボリックシンドロームは、運動量の不足や過食をはじめとする好ましくない生活習慣に原因があると考えられています。運動量の増加と食事の改善により、内臓脂肪を減少させてメタボリックシンドロームを改善し、心筋梗塞や脳卒中のリスクを軽減することが期待できます。
①運動と食事改善の併用が効果的
内臓脂肪蓄積の指標となる腹囲の1㎝減少は、約1㎏の体重(大部分が脂肪)の減少に相当します。体重を1㎏減少させるためには、運動によるエネルギー消費量の増加と食事改善によるエネルギー摂取量の減少を合わせて約7000k㎈が必要です。たとえば1カ月かけて腹囲を1㎝減少させるためには、1日当たり約230k㎈が必要となります。その構成は、食事2:運動1の割合が実現しやすいとされています。すなわち食事では約160k㎈を減らし、運動・身体活動を約80k㎈分実施することとなります。
巷にはさまざまな食事療法が紹介されていますが、米国の調査では、厳しいやり方では、5~6割程度の人しか1年間ダイエットを続けられませんでした。しかも血圧、血糖には効果がみられなかったという論文が発表されました。理論的な食事内容でも自分に合わなければ意味がなく、厳格な内容より、どれだけダイエットを続けられるかのほうが重要だという結論でした。
一般に、運動のみで体重を減少させるのに比べ、食事改善と合わせて行ったほうが体重の減量がしやすく、内臓脂肪の減少量も大きくなります。そこで、運動に加えて「食事バランスガイド」など(図11)を参考に食事の改善を行うことにより、内臓脂肪の減少量を大きくすることが可能となります。
糖尿病・脂質異常症・高血圧などの生活習慣病は、お互いに合併しやすく、肥満、とくに内臓肥満が密接に関わっています。これらの疾患は単独でも動脈硬化を促進し、脳卒中や心筋梗塞などの心血管系疾患の発症を、健常者に比べて2~3倍増加させます。そしてこれらの疾患の合併は、その危険性をさらに数倍増加させるのです。この点の注意喚起を促す意味で、肥満あるいはインスリン抵抗性をベースにしたこれら生活習慣病の合併は、古くはシンドロームX、死の四重奏、インスリン抵抗性症候群、内臓脂肪症候群あるいはマルチプルリスク症候群と呼ばれてきました。
また、脂肪組織は古くはエネルギーを貯蔵する倉庫とのみ考えられてきましたが、最近になり脂肪細胞は多くのホルモンやサイトカインと呼ばれる生理活性物質(アディポサイトカインと総称される)を産生し、糖・脂質代謝や血圧調節に重要な役割を果たしていることが明らかになってきました(図14)。
たとえば、レプチンやTNF
2005年に日本動脈硬化学会をはじめとする8学会が、日本におけるメタボリックシンドロームの診断基準を策定し、発表しました。表18に診断基準を示します。内臓肥満があることが必須項目とされ、厳密にはへその高さで腹部CT写真をとり、内臓脂肪面積が100㎠以上であれば内臓肥満があると判定します。ただし、日常臨床の場では、立位で軽く息を吐いた状態で、へその高さで腹囲(ウエスト周囲径)を測定し、男性では85㎝以上、女性では90㎝以上を内臓肥満ありと判定します。そのうえで、脂質異常症・血圧高値・空腹時高血糖の3つの異常のうち2つ以上を合併するとメタボリックシンドロームと診断することになります。皆さんはいくつ異常を持っているか、チェックしてみてください。
これらの異常の一つ一つは軽微でも、複数の異常が集積することにより、動脈硬化がより進行し、脳卒中や心筋梗塞などの心血管系疾患をひき起こす危険性が飛躍的に増加することが重視されています。実際、北海道の端野・壮瞥町の男性住民を追跡した検討では、メタボリックシンドロームがあると、そうでない人に比べて心血管系疾患が1.8倍起こりやすいことが報告されています。
2016年国民健康・栄養調査によると、20歳以上において、メタボリックシンドロームが強く疑われる人の比率は、男性27.0%、女性10.0%、予備群と考えられる人の比率は、男性24.1%、女性8.2%でした。40~74歳でみると、男性の2人に1人、女性の5人に1人が、メタボリックシンドロームが強く疑われる人または予備群と考えられます。2007年の少し古い推計になりますが、メタボリックシンドロームの該当者数は約1070万人、予備群者数は約940万人、併せて約2010万人と推定されています。厚生労働省はこのような状況に鑑み、2008年からメタボリックシンドロームに焦点をあてた「特定健診・特定保健事業」を開始しています。国をあげてメタボリックシンドロームを診断・管理・治療し、5年後、10年後の心血管系疾患を減らそうとする壮大な試みということができます。
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
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