六訂版 家庭医学大全科 「脂質代謝異常」の解説
脂質代謝異常(高脂血症)
ししつたいしゃいじょう(こうしけっしょう)
Lipid metabolism disorder (Hyperlipidemia)
(お年寄りの病気)
どのような状態か
高脂血症はLDLコレステロール140㎎/㎗以上、中性脂肪150㎎/㎗以上、HDLコレステロール40㎎/㎗未満のいずれかを満たすものと定義されます。以前は総コレステロールが220㎎/㎗以上という基準が含まれていましたが、2007年日本動脈硬化学会から出たガイドラインから総コレステロールの基準は削除されました。また、高脂血症の名称も脂質異常症と変更されましたが、本稿では高脂血症として統一します。
さて、高脂血症の基準にあるLDLコレステロールはいわゆる悪玉コレステロールであり、HDLコレステロールはいわゆる善玉コレステロールです。一般的にはLDLコレステロールが上がれば上がるほど、HDLコレステロールが下がれば下がるほど動脈硬化が起こりやすいと考えられています。中性脂肪に関しても動脈硬化、糖尿病、急性膵炎(すいえん)との関連が示されているので、注意が必要です。
高脂血症そのもので自覚症状を起こすことはほとんどなく、検診により指摘され、受診するケースがほとんどだと思われます。高脂血症は動脈硬化を進行させる重要な危険因子であり、これにより脳血管障害や
日本人の血清コレステロール値は、男性では30~70代までは加齢の影響をほとんど受けませんが、女性においては加齢とともにコレステロール値が上昇し、閉経後にピークを迎えます。また、女性においては中性脂肪も閉経後に増加します。高脂血症は家族性高コレステロール血症など遺伝的な原因による場合や、糖尿病や甲状腺機能低下症など他の病気により起こる場合がありますが、加齢、食事・運動など生活習慣に起因することも多いと考えられます。
必要な検査と疑われる病気
空腹時に採血して総コレステロール、中性脂肪、HDLコレステロールを測定します。LDLコレステロールは
「総コレステロール-中性脂肪÷5-HDLコレステロール」
の式から計算します。基準値は前述のとおりです。
高脂血症があることを指摘されたら、家族性高コレステロール血症(血縁者に起こる)など若年で狭心症・心筋梗塞を起こす可能性の高い高脂血症の有無を診断できる専門医を受診することが望ましいのですが、まず内科医を受診してください。
家庭での対処のしかた
高齢者では一般的に食事の量が少ないため、成人と同じように食事制限をすると栄養のバランスを崩し、健康を損なうことがあるので注意が必要ですが、一般的には卵などコレステロールを多く含む食事や動物性脂肪を多く含む食事は避け、魚や野菜を中心にバランスを考えた食事をするようにしましょう。また、可能であれば自分のペースで1日30分以上歩くよう心がけましょう。運動と食事が治療の基本となります。それでも下がらない場合は薬を服用する必要があります。
高脂血症の薬としては、LDLコレステロールが高い場合はHMGCoA還元酵素阻害薬(スタチン製剤)であるメバロチン、リポバス、ローコール、リピトール、リバロ、クレストールや
これらの薬剤は、長期間の服用による安全性が示されており、服用し続けても問題はありません。
ただ、スタチンやフィブラートを服用する場合、腎機能が低下していると副作用として
薬物によるリスク低下
多くの臨床試験により、高脂血症の治療が
さらにメバロチンを用いて行われた大規模臨床試験である、CARE調査に参加した65~75歳の高齢者について検討した成績で、メバロチンによるリスク低下は、冠動脈疾患死または
日本においても、高齢者を対象にした大規模臨床試験であるPATE調査が行われ、メバロチン5㎎/日投与群を対照にメバロチン10~20㎎/日を投与し、比較したところ、後者では虚血性心疾患の発症率が32.6%減少していました。また、メバロチンを用いた大規模臨床試験であるMEGA試験における高齢者の解析でも、メバロチンを服用した群において心血管イベント抑制効果が証明されています。ただし、75歳以上の後期高齢者についてはすでに心筋梗塞を起こしている場合は別として、そのような病気を起こしていない人に対する治療効果については十分なデータが得られておらず、主治医とよく相談する必要があります。
したがって、高脂血症を指摘された場合には、症状がなくても専門医(内科医)に診てもらい、生活習慣を正したうえで、必要があれば薬を服用してきちんと管理してもらう必要があります。
荒井 秀典
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報