氷室(読み)ヒムロ

  • ひょうしつ
  • 謡曲

デジタル大辞泉の解説

天然を夏までたくわえておくために設けたむろ。地中や山かげに穴をあけ、上を(かや)などでおおう。昔は宮中用の氷山城大和丹波河内(かわち)近江(おうみ)にあった。 夏》
謡曲。脇能物。宮増(みやます)作といわれる。朝臣が丹波の氷室山に立ち寄ると、氷室守(もり)の老人が氷を都へ運ばせるいわれを語り、やがて氷室の中から氷室明神が現れ、采女(うねめ)が氷を運ぶのを守護する。
氷を貯蔵する部屋。ひむろ。

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百科事典マイペディアの解説

氷を冬に採取して夏に使用できるように貯蔵する室。主に天皇の食事である供御(く)に用い,古くは《日本書紀仁徳天皇の記事に大和の闘鶏(つげ)氷室(現奈良県天理市)がみえる。一丈ほどの穴にススキなどを厚く敷き,池から採取した氷を置いて草で覆ったという。闘鶏(都介)氷室跡には長径約10m,短径約8m,深さ約2.5mのすり鉢状の穴が残る。令制下では宮内省主水(しゅすい)が管理し,《延喜式》によると10所・21室,氷池540。中世には主水正(もんどのしょう)清原氏の支配下に入った。

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世界大百科事典 第2版の解説

冬の氷を夏まで貯えておく室。文献上の初見は,《日本書紀》仁徳紀に見える大和の闘鶏(つげ)の氷室の記述である。その構造は,土を1丈余り掘り,厚く茅荻を敷き,その上に氷を置き,草をもって覆ったものという。同書孝徳紀にも氷連(ひのむらじ)の氏姓をもつ人名が見え,大化前代すでに朝廷所属の氷室の存したことが認められる。令制では宮内省主水司が氷室を管理したが,大宝令の制度では氷戸144戸が置かれ,役丁結番して氷の貯蔵・運搬等に当たった。

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大辞林 第三版の解説

天然の氷を夏まで保存しておくために設けた小屋、または穴。宮中用のものは山城・大和・河内・近江おうみ・丹波にあり、宮内省主水司の管轄。 [季] 夏。 -守竜に巻かれしはなしかな /暁台
能の一。脇能物。宮増みやます作か。氷室守りの翁が、都から訪れた亀山院の臣下に氷室の来歴を語ったのち氷室の神となって現れ、氷造りの奇特を見せる。
氷をたくわえておく倉。ひむろ。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

夏に氷を使用するため、冬の間に池にはった氷を切り取り貯蔵した穴室。その氷は4~9月、朝廷に献上され天皇・皇族・貴族に供された。『日本書紀』仁徳(にんとく)天皇62年条には、地面を一丈(3メートル)余掘り、草を敷いた上に氷を重ね、茅などで覆うという。『延喜式(えんぎしき)』では、主水司(しゅすいし)に属する氷戸(ひこ)が管理する氷室が、山城・大和・河内(かわち)・近江(おうみ)・丹波に合計21室あった。平城京の長屋王宅跡から「都祁(つげ)氷室」から長屋王家へ夏に氷を進上した木簡などが出土し、奈良時代初期の氷室の実態がうかがえるとともに、朝廷とは別に王族も独自に氷室を運営していたことが判明した。氷室の制度は中世以降にも存続した。[寺崎保広]

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精選版 日本国語大辞典の解説

[1] 〘名〙 真冬にとった氷を夏まで貯えておく室(むろ)。特に、氷池(ひいけ)に張った氷を切り出して貯蔵しておく室。山陰に穴を掘り、茅などでその上をおおって氷を保存した。ここで貯えられた氷は、天皇には四月一日から九月末日、中宮・東宮などには五月から八月、臣下には五月五日から八月末日までの間供するために、毎日京に送られた。《季・夏》
※令義解(718)職員「主水司 正一人。〈掌樽水。饘粥。及氷室事〉」
※千載(1187)夏・二〇八「春秋も後のかたみはなきものをひむろぞ冬のなごりなりける〈覚性法親王〉」
[2] 謡曲。脇能物。各流。宮増(みやます)作といわれる。朝臣が丹波国氷室山に立ち寄ると、氷室守(もり)の老人が現われて、毎年供御(くご)にささげる氷の溶けないいわれや、この氷室のおこりなどを語り、そのまま氷室の中に姿を消す。やがて天女が現われて舞を舞い、ついで氷室明神が室の中から本体を現わして氷を守護して都へ運ばせる様子を物語る。「日本書紀」による。
〘名〙 氷を蓄えておくへや。ひむろ。こおりぐら。
※西洋聞見録(1869‐71)〈村田文夫〉前「倫敦に於て一大の氷室あり」 〔詩経伝‐豳風・七月〕

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世界大百科事典内の氷室の言及

【室】より

…また,地中にうがたれた穴蔵や山腹などに掘ってつくった岩屋も室と呼ばれた。しだいに室が住宅の部屋を示すことはなくなり,冬期に得られる氷を夏期まで保存させておく氷室(ひむろ)や醸造に不可欠の麴室(こうじむろ)などに室ということばが使われている。氷室は具体的な形が残った遺跡は発見されていないが,夏期に宮中へ毎日氷が供給された記録が残っている。…

【冷蔵庫】より

…家庭用のものを指し,電力による冷凍機を用いる電気冷蔵庫が一般的である。食品の保存には,古くは天然の氷や雪を利用したと思われ,土に穴を掘り,草を敷いてその中に氷を保存する氷室(ひむろ)の記事が《日本書紀》仁徳天皇62年条に見える。この氷を夏季には朝廷に献上する習慣も古代からあり,また江戸時代の将軍家は金沢から氷を取り寄せていた。…

※「氷室」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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