氷室(読み)ヒムロ

デジタル大辞泉 「氷室」の意味・読み・例文・類語

ひ‐むろ【氷室】

天然氷を夏までたくわえておくために設けたむろ。地中や山かげに穴をあけ、上をかやなどでおおう。昔は宮中用の氷室が山城大和丹波河内かわち近江おうみにあった。 夏》

ひむろ【氷室】[謡曲]

謡曲脇能物。宮増みやます作といわれる。朝臣が丹波の氷室山に立ち寄ると、氷室もり老人が氷を都へ運ばせるいわれを語り、やがて氷室の中から氷室明神が現れ、采女うねめが氷を運ぶのを守護する。

ひょう‐しつ【氷室】

氷を貯蔵する部屋。ひむろ。

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精選版 日本国語大辞典 「氷室」の意味・読み・例文・類語

ひ‐むろ【氷室】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙 真冬にとった氷を夏まで貯えておく室(むろ)。特に、氷池(ひいけ)に張った氷を切り出して貯蔵しておく室。山陰に穴を掘り、茅などでその上をおおって氷を保存した。ここで貯えられた氷は、天皇には四月一日から九月末日、中宮・東宮などには五月から八月、臣下には五月五日から八月末日までの間供するために、毎日京に送られた。《 季語・夏 》
    1. [初出の実例]「主水司 正一人。〈掌樽水。饘粥。及氷室事〉」(出典:令義解(718)職員)
    2. 「春秋も後のかたみはなきものをひむろぞ冬のなごりなりける〈覚性法親王〉」(出典:千載和歌集(1187)夏・二〇八)
  2. [ 2 ] 謡曲。脇能物。各流。宮増(みやます)作といわれる。朝臣が丹波国氷室山に立ち寄ると、氷室守(もり)の老人が現われて、毎年供御(くご)にささげる氷の溶けないいわれや、この氷室のおこりなどを語り、そのまま氷室の中に姿を消す。やがて天女が現われて舞を舞い、ついで氷室明神が室の中から本体を現わして氷を守護して都へ運ばせる様子を物語る。「日本書紀」による。

ひょう‐しつ【氷室】

  1. 〘 名詞 〙 氷を蓄えておくへや。ひむろ。こおりぐら。
    1. [初出の実例]「倫敦に於て一大の氷室あり」(出典:西洋聞見録(1869‐71)〈村田文夫〉前)
    2. [その他の文献]〔詩経伝‐豳風・七月〕

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改訂新版 世界大百科事典 「氷室」の意味・わかりやすい解説

氷室 (ひむろ)

冬の氷を夏まで貯えておく室。文献上の初見は,《日本書紀》仁徳紀に見える大和の闘鶏(つげ)の氷室の記述である。その構造は,土を1丈余り掘り,厚く茅荻を敷き,その上に氷を置き,草をもって覆ったものという。同書孝徳紀にも氷連(ひのむらじ)の氏姓をもつ人名が見え,大化前代すでに朝廷所属の氷室の存したことが認められる。令制では宮内省主水司が氷室を管理したが,大宝令の制度では氷戸144戸が置かれ,役丁を結番して氷の貯蔵・運搬等に当たった。さらに《延喜式》には,4月から9月までの間,天皇の供御以下,中宮・東宮などに進める氷の量,氷を運ぶ徭丁,氷室の雑用料などを規定している。その氷室の数は21室で,山城国徳岡小野栗栖野,土坂(長坂か),賢木原,石前(松前松崎か)および大和国都介(つげ),河内国讃良,近江国竜花,丹波国池辺の10ヵ所にあった。また氷を採取する氷池は,山城の296ヵ所をはじめ,大和30ヵ所,河内58ヵ所,近江66ヵ所,丹波90ヵ所,計540ヵ所にのぼる。上記のうち,近江国竜花の氷室は早く廃絶したらしく,《朝野群載》所収の1101年(康和3)の主水司注進状に列挙する12ヵ所のなかには入っていない。また同注進状には,徳岡,松崎など山城の9ヵ所の氷室をはじめ,大和の都介,河内の讃良,丹波の神吉の氷室を挙げ,《延喜式》の地名と多少相違するものもあるが,おおよそ式の制度を引き継いでいると思われる。しかし氷戸制は律令体制の衰退とともに消滅し,鎌倉初期以降主水正を世襲した清原氏が,目代-預-供御人の系列を組織化し,各氷室に付属する氷室田を含めて,諸役免除,一円進止の禁裏御料所と称して知行した。これは宮内省大炊寮の御稲田(みいねだ)の知行形態に似ており,御稲田とともに室町時代末まで存続したことは,主水正目代の職にあった中原康富の日記《康富記》や広島大学所蔵《猪熊文書》所収の氷室文書などによって確認できる。
氷の朔日(ついたち) →(むろ)
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百科事典マイペディア 「氷室」の意味・わかりやすい解説

氷室【ひむろ】

氷を冬に採取して夏に使用できるように貯蔵する室。主に天皇の食事である供御(くご)に用い,古くは《日本書紀》仁徳天皇の記事に大和の闘鶏(つげ)氷室(現奈良県天理市)がみえる。一丈ほどの穴にススキなどを厚く敷き,池から採取した氷を置いて草で覆ったという。闘鶏(都介)氷室跡には長径約10m,短径約8m,深さ約2.5mのすり鉢状の穴が残る。令制下では宮内省主水(しゅすい)司が管理し,《延喜式》によると10所・21室,氷池540。中世には主水正(もんどのしょう)清原氏の支配下に入った。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「氷室」の意味・わかりやすい解説

氷室
ひむろ

夏に氷を使用するため、冬の間に池にはった氷を切り取り貯蔵した穴室。その氷は4~9月、朝廷に献上され天皇・皇族・貴族に供された。『日本書紀』仁徳(にんとく)天皇62年条には、地面を一丈(3メートル)余掘り、草を敷いた上に氷を重ね、茅などで覆うという。『延喜式(えんぎしき)』では、主水司(しゅすいし)に属する氷戸(ひこ)が管理する氷室が、山城・大和・河内(かわち)・近江(おうみ)・丹波に合計21室あった。平城京の長屋王宅跡から「都祁(つげ)氷室」から長屋王家へ夏に氷を進上した木簡などが出土し、奈良時代初期の氷室の実態がうかがえるとともに、朝廷とは別に王族も独自に氷室を運営していたことが判明した。氷室の制度は中世以降にも存続した。

[寺崎保広]

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[日本酒・本格焼酎・泡盛]銘柄コレクション 「氷室」の解説

ひむろ【氷室】

岐阜の日本酒。精米歩合50%で仕込む純米大吟醸生酒は4~9月限定発売品。ほかに大吟醸酒がある。原料米は主にひだほまれ。仕込み水は北アルプス山系の伏流水。蔵元の「二木酒造」は元禄8年(1695)創業。所在地は高山市上二之町。

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普及版 字通 「氷室」の読み・字形・画数・意味

【氷室】ひようしつ

ひむろ。

字通「氷」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の氷室の言及

【室】より

…また,地中にうがたれた穴蔵や山腹などに掘ってつくった岩屋も室と呼ばれた。しだいに室が住宅の部屋を示すことはなくなり,冬期に得られる氷を夏期まで保存させておく氷室(ひむろ)や醸造に不可欠の麴室(こうじむろ)などに室ということばが使われている。氷室は具体的な形が残った遺跡は発見されていないが,夏期に宮中へ毎日氷が供給された記録が残っている。…

【冷蔵庫】より

…家庭用のものを指し,電力による冷凍機を用いる電気冷蔵庫が一般的である。食品の保存には,古くは天然の氷や雪を利用したと思われ,土に穴を掘り,草を敷いてその中に氷を保存する氷室(ひむろ)の記事が《日本書紀》仁徳天皇62年条に見える。この氷を夏季には朝廷に献上する習慣も古代からあり,また江戸時代の将軍家は金沢から氷を取り寄せていた。…

※「氷室」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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