呉服(読み)ごふく

精選版 日本国語大辞典 「呉服」の意味・読み・例文・類語

ご‐ふく【呉服】

〘名〙
① 古代中国の呉の国から伝わったという織り方によって織り出した布帛(絹・綾)。くれはとり。あやはとり。
※宇津保(970‐999頃)沖つ白浪「長櫃の唐櫃一具(よろひ)に、内蔵寮のこふく、〈略〉よき宝ども入れて」
② 和装用の織物類・衣類の総称反物(たんもの)きもの
※浮世草子・好色一代女(1686)四「折ふし呉服(ゴフク)商売の若き者が是を見て沙汰しけるは」
太物(ふともの)(=綿織物・麻織物)に対して絹織物の総称。
人倫訓蒙図彙(1690)四「上品(じゃうぼん)の着物を呉服(ゴフク)とはいふ也」
④ 小袖をいう女房詞
※女重宝記(元祿五年)(1692)一「こそでは、ごふくといふ」
塵劫記(1627)上「絹、木綿の丈尺寸と云ふは大工の鉄(かね)一尺二寸を御服(ゴフク)一尺と云也」

くれは【呉服】

謡曲脇能物。各流。作者不詳。朝臣が呉服(くれは)の里に行くと、松原応神天皇のとき唐から渡ってきた織女呉織(くれはとり)、漢織(あやはとり)という二人の女が機を織っており、渡来様子を語って、大君に奉る錦を織ることを約して立ち去る。明け方、呉織が現われて錦を織り、御代を祝って舞を舞う。

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デジタル大辞泉 「呉服」の意味・読み・例文・類語

ご‐ふく【呉服】

和服用織物の総称。反物。
太物ふとものに対して、絹織物の称。
古代中国、呉の国から伝わった織り方によって作った綾などの織物。くれはとり。
[類語]布地生地服地反物太物

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「呉服」の意味・わかりやすい解説

呉服
ごふく

和服用織物で小幅物(並幅)を総称していう。また反物、布帛(ふはく)、布をさす。

 江戸時代には、麻・木綿などの織物を太物(ふともの)と称したのに対して、絹織物を呉服と称した。

 小袖(こそで)(着物)1着できる長さを反物といい、布幅は着尺幅9寸4~5分(約36センチメートル)、長2丈8~9尺(約11メートル)。

 応神(おうじん)天皇・雄略(ゆうりゃく)天皇の時代に呉の国(中国の江南)より縫工女呉織(きぬぬいめくれはとり)(呉服)・漢織(あやはとり)(穴織)が渡来し、優れた絹織物を生産した。転じてその手法によるわが国の織物の名称となる。

 呉服の名は『うつほ物語』田鶴の村鳥巻にみえる。『人倫訓蒙図彙(きんもうずい)』に上品(じょうぼん)の着物を呉服、『女重宝記』に小袖はごふくとある。当時の小袖は絹物の綿入、太物の綿入を布子と称した。小袖の着尺は江戸初期まで、縫箔(ぬいはく)、摺箔(すりはく)に加えて鹿子(かのこ)類が多いが、のち染め模様に転じた。徳川禁令考によると、1626年(寛永3)反物の長3丈2尺、幅1尺4寸とあり、のちに長3丈4尺となる。

[藤本やす]

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「呉服」の解説

呉服
ごふく

和服用織物の総称。江戸時代には,麻・綿織物などの太物(ふともの)に対し,絹織物をさした。おもに武士階層を顧客にしたので,呉服店は特権的な大商人にかぎられ,京坂の商人が江戸に集中した。三井越後屋などに代表される呉服店は,各地の絹織物生産地に買継商人や買宿をおき,呉服の買占めにあたらせた。江戸中期以降になると,農民・町民の間にも呉服の需要が広がった。

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世界大百科事典(旧版)内の呉服の言及

【呉服屋】より

…呉服を売買する商人およびその店。呉服はもともとは絹織物を指し,綿織物,麻織物の太物(ふともの)と区別されていたが,現在では着尺(きじやく)織物の総称となっている。…

【問屋】より

…諸地方から江戸へ送られる米は,上方からのものは下り米問屋,関東からのものは関東米穀三組問屋を経てともに河岸八町米仲買から脇店八ヶ所組米屋,また関東ならびに奥州からのものは地廻米穀問屋から脇店八ヶ所組米屋へ売られ,搗米屋から消費者の手に渡った。 近世の商品のなかで大きい地位を占めた呉服は趣味性の強い商品であった関係もあって,蔵物・納屋物とは異なった多様な流通経路をたどった。西陣で織られた絹織物は,上仲買の手をへて下仲買(室町問屋)の手に渡り,それが消費地へ送られるのが原則的な形であったが,京都に本拠をおき,江戸へ進出して発展した大呉服商(越後屋,白木屋,大丸屋など)は,おおむね次のような形をとった。…

※「呉服」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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