百日咳(読み)ひゃくにちぜき(英語表記)whooping cough

翻訳|whooping cough

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

百日咳
ひゃくにちぜき
whooping cough

百日咳菌による感染症。旧伝染病予防法届出伝染病の一つで,今日では感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律で 5類感染症に分類される。百日咳に対する未罹患児の感受性は,小児急性感染症のなかでも麻疹に次いで高く,小児の間に蔓延しやすいが,成人も感染する。また麻疹と異なり新生児期でも感染する。約 2週間の潜伏期のあとカタル期が始まり,のどのかゆみ,眼の充血,微熱,くしゃみ,鼻汁(→鼻漏),空咳(→咳嗽)が生じ,1~2週間後に咳が連続する痙咳期に入る。痙咳期では,咳の発作時に顔面のチアノーゼ静脈怒張嘔吐の喀出などをみる。痙咳期は通常 3~4週間続き,のちに回復期となる。ワクチンが有効(→予防接種)。

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デジタル大辞泉の解説

ひゃくにち‐ぜき【百日×咳】

百日咳菌によって起こる小児の呼吸器系の感染症。学校感染症の一。感染症予防法の5類感染症の一。発症の1~2週間は感冒に似た咳をし、夜間に多くなる。続く2~6週間は痙攣(けいれん)性の激しい咳の発作が繰り返し起こるが、発作のないときは健康時と変わらない。さらに2~3週間、軽い発作がみられるが、しだいに消失する。予防接種が有効。

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百科事典マイペディアの解説

百日咳【ひゃくにちぜき】

百日咳菌による小児の伝染病。1〜2週間の潜伏期に続いて夜間の咳を主とした感冒様の症状で始まる(カタル期)。やがて顔を赤くして咳込む痙攣(けいれん)性の咳に変わり,独特の呼気性笛声(レプリーゼ)がみられる状態が3〜4週間続き(痙咳(けいがい)期),回復に向かう。通常は無熱で,熱があれば肺炎など合併症の疑いがある。治療はエリスロマイシンなど。予防手段として生後3〜12ヵ月にワクチン注射を行い,その後1年〜1年半で追加注射をする。通常ジフテリアワクチン,破傷風ワクチンと混合した三種混合ワクチンを用いる。
→関連項目アトロピン学校伝染病届出伝染病白血球増加症飛沫感染予防接種

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世界大百科事典 第2版の解説

ひゃくにちぜき【百日咳 pertussis】

百日咳菌によって起こる急性の呼吸器伝染病で,届出伝染病の一つ。一度かかると終生免疫をうるといわれる。百日咳菌Bordetella pertussisは1906年ボルデーJ.BordetとジャングーO.Gengouによって患者から分離された小杆菌(1.0~1.5μm×0.3~0.5μm)で,グラム陰性。病原菌の侵入は飛沫感染,すなわち患者の咳をあびることによる。潜伏期は7~14日。発症してから1~2週間は咳,2~3日間の軽度の発熱や鼻汁など,一般の感冒のような症状であるが,熱のないことが多い(カタル期)。

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大辞林 第三版の解説

ひゃくにちぜき【百日咳】

百日咳菌の飛沫感染による急性の感染症。潜伏期は一~二週間で、感冒様の症状を呈し、ついで特有な痙攣けいれん性の咳の発作を繰り返す時期が二~六週間続く。予防接種が有効。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

百日咳
ひゃくにちぜき
pertussiswhooping cough

百日咳菌による気道(気管・気管支)の急性伝染病で、感染症予防・医療法(感染症法)で5類感染症(小児科定点把握)に分類されている。患者の咳を浴びることによって感染(飛沫(ひまつ)感染)する。伝染力が強く、免疫がなければほとんど100%発症する。患者の過半数は3歳未満の乳幼児で、母親からの免疫を受け継がないので、新生児でもかかることがあり、死亡例は1歳未満に集中する。百日咳の特徴は、痙咳(けいがい)とよばれる爆発的で断続するけいれん性の咳(スタッカートstaccato)と、その終了時にみられる激しい吸気性笛声(フープwhoop)およびこれらの反復(レプリーゼrepriese)からなる発作と、この発作時以外は元気で健康時と変わらないことである。
 なお、百日咳菌と類縁のパラ百日咳菌によるパラ百日咳は、百日咳よりも軽症で経過が短く発症頻度も少ないが、臨床的には区別しがたく一括して百日咳症候群とよぶこともある。[柳下徳雄]

症状

潜伏期は通常1~2週間で、病期は普通、カタル期、痙咳期、回復期に大別される。
(1)カタル期 病初の1~2週間で、痰(たん)の出ない咳、鼻汁、かれ声などを主症状とする普通感冒に似た型で始まるが、鎮咳剤を与えても咳が軽くならない。普通感冒なら回復に向かうころになっても咳が強く間欠的な偏りをみせ、とくに夜間の就眠中に多くなる傾向がみられる。
(2)痙咳期 いわゆる発作期で、カタル期に続く2~6週間をさす。前述の百日咳に特有な咳の発作が現れる。すなわち、息を吸う間もなく小さな激しい咳が十数回も続発し、そのあとヒューッと特異な笛声を出して息を吸う。俗に「内(うち)へ引く」というのがこれである。このような咳を数回から十数回繰り返したのち、粘っこい透明な痰を喀出(かくしゅつ)して1回の発作が終わる。普通2~3分間であるが、発作中は顔が赤くなり、舌を出して咳をし、涙や鼻汁も出る。夜中に発作がおこると、上半身を起こして前かがみになり苦しむ。嘔吐(おうと)したり、ときには唇が紫色になる(チアノーゼ)ほか、乳児では内に引くことがなく、呼吸停止やけいれんをおこして無酸素性脳症を合併し、重篤となることもある。しかし、前述のように発作と発作の間は、普段の健康時と変わらない。
 この発作は、精神的な興奮や食物摂取などをきっかけとしておこりやすく、1日に10回から数十回に及ぶ。ことに就眠後1~2時間に頻発するので、睡眠不足や食欲減退を招き、体力を消耗するほか、はれぼったい顔つき(百日咳顔貌(がんぼう))となる。なお、咳の発作の激しいのは痙咳期の初めの2~3週間で、あとは激しさも回数もしだいに減少してくる。
(3)回復期 痙咳期に続く2~3週間で、ときに軽い発作がみられることもあるが、しだいに普通の咳に戻り、回復してくる。
 なお、各期の移行期は明確でなく、症状も患者の年齢や免疫の有無などによって異なる。[柳下徳雄]

治療

カタル期の初期にエリスロマイシンなどの抗生物質を用いて排菌を抑制するが、痙咳期の症状寛解には効果を期待できない。しかし、痙咳期における肺炎など二次感染による合併症の予防や、感冒様症状を呈した接触感染者の発症予防には役だつ。また、痙咳期重症乳児の救命処置として副腎(ふくじん)皮質ホルモンが用いられ、毒素中和による症状軽減を目的として静脈注射用γ(ガンマ)‐グロブリン製剤も使われる。
 一方、一般療法は軽視されがちであるが、看護上きわめて重要である。すなわち、水分やバランスのとれた食事を無理なく少量ずつ頻回に与え、咳を誘発させるような刺激、たとえば冷気、たばこの煙、乾燥食品で粉末になりやすいもの、咳に対する不安感などを除去する。[柳下徳雄]

免疫

一度かかれば終生免疫となる。母体から免疫を受けないので新生児にも感染する。[柳下徳雄]

予防

患児からの伝染力は発病初期に強く、発病後8週間くらいは感染させる可能性があるので、患児は家庭内で他の家族と病床を離し、とくに乳幼児を近づけないようにする。なお、学校保健安全法による第2種学校感染症であり、特有の咳が消失するまで出席停止の扱いを受ける。[柳下徳雄]

予防接種

1981年(昭和56)以来「沈降精製百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン(改良DPT三混)」が定期接種に用いられている。百日咳に対しては2期に分けて実施され、第期は生後3か月から90か月(標準的な接種時期は3~12か月)の間に3~8週間隔で3回皮下注射し、第期は第期の完了後12~18か月の間に1回皮下注射(各回0.5ミリリットルずつ)する。
 乳児では重症となりやすいので、流行期には早めに接種することが望まれる。予定どおりの間隔で接種が行えなくても、定められた回数の接種を行えば免疫効果は確保される。
 なお、従来の三混ワクチンは1975年(昭和50)に「百日せきワクチン」の副作用が問題になって一時中止され、その後1981年に「改良百日せきワクチン」ができてから再開された。この接種の一時中止に伴い、予防接種率が低下し、集団接種の年齢引上げなどから免疫のない乳幼児が増加するとともに百日咳患者数が「百日せきワクチン」の接種以前までふたたび増加してきたが、再開に伴い減少傾向をみた。[柳下徳雄]

百日咳菌

1906年にフランスで初めて分離された百日咳の病原菌Bordetella pertussisで、分離に成功した研究者の名を冠してボルデー‐ジャングー菌Bordet-Gengou bacillusともよばれる。グラム陰性、好気性の長径約1マイクロメートルの卵形桿菌(かんきん)で、トルイジンブルーの染色により菌体両端に濃染する小体が認められる。乾燥および普通の消毒薬で容易に死滅し、また55.5℃の加熱でも殺菌される。カタル期の気道粘膜に多数検出される。なお、類縁菌のパラ百日咳菌B. parapertussisはパラ百日咳の病原菌で、百日咳菌の発育にはボルデー‐ジャングー培地を使うのに対し、パラ百日咳菌は普通寒天培地によく発育する。[柳下徳雄]

その後の動向

前述したように、1981年(昭和56)に現行の三種混合ワクチン(DPT)が導入されてから百日咳の患者数は減少したが、2007年(平成19)に大学等で大規模な百日咳の集団感染が発生するなど、近年、成人を中心に増加傾向にある。過去に受けたワクチン効果の低下が原因の一つと考えられており、新たな対策が求められている。[編集部]

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精選版 日本国語大辞典の解説

ひゃくにち‐ぜき【百日咳】

〘名〙 百日咳菌が飛沫感染して起こる子どもの急性感染症。痙攣(けいれん)性の咳発作が現われる。春から夏にかけて多い。一度かかれば終生免疫ができる。予防接種が有効。百日風。〔俚言集覧(1797頃)〕

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内科学 第10版の解説

百日咳(Gram 陰性悍菌感染症)

(15)百日咳(whooping cough,pertussis)
定義・概念
 百日咳菌(Bordetella pertussis)は好気性のGram陰性桿菌で,百日咳毒素(pertussis toxin:PT),線維状赤血球凝集素(filamentous hemagglutinin:FHA),パータクチン(pertactin:PRN),アデニル酸シクラーゼ毒素(adenylate cyclase toxin:ACT)などの病原因子が同定されている.百日咳菌は患者の上気道分泌物の飛沫などにより経気道的に伝播され(飛沫感染),その感染力はきわめて強い.潜伏期間は1~2週間である.
 百日咳(whooping cough, pertussis)は百日咳菌の感染によって起きる特有の咳発作を伴う呼吸器疾患である.
 わが国においては1950~70年まで百日咳は約4年ごとの流行を繰り返していたが,1968年からの,ジフテリア(D),百日咳(P),破傷風(T)のDPT3種混合ワクチンの定期接種の実施により激減した.しかし,予防接種後の死亡事故を契機に1975年に定期接種が一時中断されたところ急増し,1981年にPT,FHAなどを主成分とする改良型百日咳ワクチンにより予防接種が再開されると再度減少した.4歳未満の患者が大部分を占め,乳児では重症化する場合がある.1997年以降は流行を示す明確なピークはなかったが,2007年頃から成人患者を中心に患者数の増加が認められており,成人から罹患したワクチン未接種の乳児の重症化が問題となっている.
病理・病態生理
 飛沫感染により気道に侵入した百日咳菌は,FHA,PRNなどの働きにより気管支の線毛上皮細胞に付着し増殖する.増殖した百日咳菌はPTをはじめとする毒素性病原因子を産生し,気管支上皮を傷害する.
臨床症状
 発症後の臨床経過はカタル期,痙咳期,回復期に分けられる.
1)カタル期:
咳,鼻汁などの上気道炎症状を呈する時期で,1~2週間続く.
2)痙咳期:
百日咳特有の咳発作を呈する時期である.すなわち連続性の咳(staccato)とそれに続く吸気性の笛声(whoop,reprise)を伴う発作性咳が認められ,これを何回も繰り返すのが特徴である.咳発作は夜間に多く,気道刺激で誘発される.しばしば嘔吐を伴う.重症例では咳発作中に息継ぎができないためチアノーゼを伴う.新生児期や早期乳児期では無呼吸発作を起こす場合もある.咳発作のために顔面の浮腫,点状出血,眼球結膜の出血,舌小帯の潰瘍が認められる.この時期は少なくとも1~2週間続く.
3)回復期:
回復期になると激しい咳は次第に軽快するが,咳は長期間(数週から数カ月間)続き,消失後も呼吸器感染症罹患時に再度増悪する場合がある. いずれの時期にも発熱は認められないかあっても軽度である.
検査成績
 末梢血白血球(リンパ球)数の著明な増加が特徴的である.これはPTの作用によるものと考えられており,ワクチン接種例,年長児,成人では認められない.CRP(C-reactive protein,C反応性蛋白)の増加は伴わないことが多い.血清学的検査では百日咳凝集素価,抗PT抗体価,抗FHA抗体価の上昇が認められる.細菌学的には専用培地を用いて上咽頭(鼻咽頭)粘液から百日咳菌を分離するが,分離率は高くない.PCR法やLAMP法による菌体DNAの検出は菌分離より迅速で,感度もすぐれ有用であるが,保険適応はない.胸部X線写真では肺炎を併発しなければ異常陰影は認められない.
診断・鑑別診断
 地域や家族内,集団内での流行状況,特徴的な咳発作や新生児・乳児の無呼吸発作などの臨床症状,著明なリンパ球増加などから診断するが,年長児や成人では非定型例が多いので注意が必要である.確定診断のためには,百日咳凝集素価,抗PT抗体価,抗FHA抗体価のペア血清での有意な上昇もしくは細菌学的に百日咳菌を証明する必要がある.単一血清での血清学的診断は慎重に行われるべきである.
経過・予後
 合併症を起こさなければ基本的には予後良好の疾患であるが,新生児期・早期乳児期には特に重症化しやすいので注意が必要である.
治療
 エリスロマイシン,クラリスロマイシンなどの14員環マクロライド系薬が第一選択薬となる.投与期間はエリスロマイシン14日間,クラリスロマイシン7日間である.その他鎮咳去痰薬の投与,無呼吸に対する適切な呼吸管理を行う.
予防
 百日咳ワクチンの接種,集団内で発生した場合はワクチン未接種者に対するマクロライド系薬の予防投与.成人の百日咳を予防し新生児や早期乳児への感染を防ぐためには,乳幼児期のワクチン接種のみでは不十分であり,学童期の小児や妊婦を含む成人への追加接種が必要である.[岩田 敏]
■文献
Cherry JD, Heininger U: Pertussis and other Bordetella infections. In: Textbook of Pediatric Infectious Diseases, 6th ed (Feigin RD, Cherry JD, et al eds), pp1683-1706, WB Saunders, Philadelphia, 2009.
国立感染症研究所:百日咳 2005~2007.病原微生物検出情報(IASR), 2008.
http://idsc.nih.go.jp/iasr/29/337/tpc337-j.htmlWaters
V, Halperin S: Bordetella pertussis. In: Principles and Practice of Infectious Diseases, 7th ed (Mandell GL, Bennett JE, et al eds), pp2955-2964, Churchill Livingstone, New York, 2010.

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