手本を傍らに置き,見ながらその字形や筆使い,字配りや全体の気分をまねて練習すること。また,そうして書いたものをさす。学書に最も多く用いられる方法で,効果が大きいため初心者,大家の別なく行われる。中国では絵画の学習に〈伝模移写〉が重要であると説かれ,書においても〈臨摹(りんも)〉という熟語があり,学書の法とされている。〈臨〉は法帖を傍らに置いて習うこと,〈摹〉は手本(佳書)の上に紙をのせて練習すること,すなわち敷き写しである。いずれも創作への糧となるもので,学書の時間の大半はこの臨書に費やされている。臨書には形臨と意臨の2法があるという。形臨は字形を忠実にまねること,意臨は手本の意(こころ)をくみとり表現することに重きをおいた方法である。しかし,書の意は字形を通して感じ,表現するものであるから,この2法は相前後しながら行われるものであろう。別に背臨という方法がある。手本をよく観察し,十分に目習いしたあと,筆をおろすときは手本を見ずに書くことである。臨書のための手本には良書の選択がたいせつである。書聖といわれた王羲之の書は中国,日本の別なく何時の世でも範とされたが,日本では三筆,三蹟の書もよく採用される。師匠の肉筆手本を見て練習するのも臨書ではあるが,ふつうは,こうした古人の法帖,印刷本による優品を見て書くことをいう。
執筆者:角井 博
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
臨(うつ)す(写す)こと。手習い方法の一つで、名跡・名筆とよばれる手本を傍らに置いて、これを熟覧しながらていねいに写す方法をいう。手本の字形、筆勢、用筆の技法など、さまざまな書道的技術を探ることを目的とする。写す精度の違いにより、手本を透(すき)写しにする臨摸(りんも)(臨写)、手本の紙背から光線を当てて籠字(かごじ)をとって写す響搨(きょうとう)(双鉤填墨(そうこうてんぼく))とよぶ方法もある。現代では、形を忠実にまねる形臨(けいりん)、手本の筆意をくみ取る意臨(いりん)の熟語も使用される。日本書道史上の遺品では、中国・東晋(とうしん)時代の王羲之(おうぎし)のものを忠実に写した光明(こうみょう)皇后筆の『楽毅論(がっきろん)』(正倉院宝物)、紀貫之(きのつらゆき)自筆本を写したという藤原定家(ていか)筆『土左日記』(巻末二ページ、前田育徳会)をあげることができる。
[神崎充晴]
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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