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島崎藤村の処女詩集。1897年(明治30)春陽堂刊。藤村の仙台時代におもに『文学界』に発表された51編の詩と序詩を収録。七五調を基調とし、優美な大和(やまと)ことばを多用した文語定型詩で、失恋、漂泊を重ねてようやく「春」に巡り会った藤村の青春の哀歓が歌われている。長詩「草枕(くさまくら)」に表れているように、その讚歌(さんか)はかならずしも高らかではなく、叙情詩としても物語的な性格が目だつが、鬱屈(うっくつ)した自我の姿と解放への熱い願いを歌って、明治のロマンチシズムを代表する詩集である。「おえふ」をはじめとする6人の女性を歌った詩や、「秋風の歌」「潮音(しおのね)」「初恋」「白壁」などがとくに名高い。
[十川信介]
『『藤村詩抄』(岩波文庫)』▽『『藤村詩集』(新潮文庫)』
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島崎藤村(とうそん)の第1詩集。1897年(明治30)春陽堂刊。近代の詩概念にもとづいた抒情詩の最も早い時期の作品であり,明治30年代の浪漫主義全盛時代を画する代表的詩集。近代的な生の自覚のもとに,自己実現と個人感情の解放をめざす青年の情熱と鬱屈,あるいはそれゆえの苦悩が,恋愛や青春の彷徨,自然との交感を通して七五調の文語定型詩に盛りこまれている。情感あふれる詩編の数々は同時代およびのちの詩人たちに多大の影響を及ぼした。
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…1893年,北村透谷,島崎藤村,上田敏らが《文学界》を創刊,キリスト教およびルネサンスへの関心を中核にもつ浪漫主義運動を展開,啓蒙的・社会改良的功利主義を批判して,文学・芸術独自の価値にもとづく作品活動を主張した。藤村の《若菜集》(1897)の恋愛詩はその代表的な成果である。抒情詩における恋愛至上の情熱の表現は,在来の封建社会的倫理観や家族制度に対する抵抗の意思表示となりえた点で,青年男女の熱狂的支持を得た。…
…それに対して藤村は,現実に対する態度としては数歩後退したが,より成熟した新体詩型を可能にした。彼の《若菜集》(1897)により,明治の青年の鬱屈した自意識や恋愛感情は,官能のよろこびにうちふるえるロマン的な声となった。 しかし,透谷がその過激な思想によって,自分を破るように自殺してからの《文学界》のロマン主義は,しだいに観照的・芸術至上主義的な方向に転回をとげる。…
※「若菜集」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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