草枕(読み)クサマクラ

デジタル大辞泉 「草枕」の意味・読み・例文・類語

くさ‐まくら【草枕】

[名]旅先で、草で仮に編んだ枕の意から》旅寝すること。旅先でのわびしい宿り。くさのまくら。
「衣うつ音を聞くにぞ知られぬる里遠からぬ―とは」〈千載・秋下〉
[枕]
「旅」「旅寝」および同音の「たび」にかかる。
「―旅にしあれば」〈・一四二〉
《草の枕を「ゆふ」意から》「結ふ」および同音の「ゆふ」などにかかる。
「―夕風寒くなりにけり衣うつなる宿やからまし」〈新古今羇旅
地名の「多胡たご」にかかる。
「―多胡入野の奥もかなしも」〈・三四〇三〉
[補説]3については、頭音が「旅」と同じ「た」であるところからとする説がある。書名別項。→草枕
[類語]泊まる寝泊まり宿泊外泊野宿素泊まり旅宿投宿止宿旅寝仮寝宿る合宿泊まり泊まり込む泊まり込み旅枕分宿来泊泊まり掛け同宿露営宿営野営宿を取る

くさまくら【草枕】[書名]

夏目漱石小説。明治39年(1906)発表。旅に出た青年画家を主人公に、非人情境地を描く。

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精選版 日本国語大辞典 「草枕」の意味・読み・例文・類語

くさ‐まくら【草枕】

  1. [ 1 ]
      1. (イ) 道の辺の草を枕にして寝る意で、「旅」にかかる。
        1. [初出の実例]「久佐麻久良(クサマクラ)旅行く君を幸(さき)くあれと斎瓮(いはひへ)据ゑつ我が床の辺に」(出典:万葉集(8C後)一七・三九二七)
      2. (ロ) ( 「枕」の語に、寝るということとのつながりを感ずるところからか ) 「旅寝」にかかる。中古以降に多い用法。
        1. [初出の実例]「草まくらこの旅寝にぞ思ひ知る月より外の友無かりけり〈忠命〉」(出典:二度本金葉(1124‐25)秋)
      3. (ハ) 「旅(たび)」と同音の「たび(度)」または、それを含む連語にかかる。
        1. [初出の実例]「草枕このたび経つる年月の憂きはかへりて嬉しからなん〈よみ人しらず〉」(出典:後撰和歌集(951‐953頃)恋二・六九二)
    1. 地名「多胡(たご)」にかかる。かかり方未詳。
      1. [初出の実例]「吾が恋はまさかも愛(かな)し久佐麻久良(クサマクラ)多胡の入野(いりの)の奥も愛しも」(出典:万葉集(8C後)一四・三四〇三)
    2. 草の枕を「結ふ」意で、「結ふ」と同音の「ゆふ(夕)」を含む連語や地名「ゆふ山」などにかかる。この場合、旅をしている意を含む例が多い。
      1. [初出の実例]「草枕夕風寒くなりにけり衣うつなる宿や借らまし〈紀貫之〉」(出典:新古今和歌集(1205)羇旅・九〇五)
  2. [ 2 ] 〘 名詞 〙 ( 枕詞から転じたものか )
    1. 草を編んで作った枕。旅先でのわびしい宿泊や仮の宿を暗示する。
      1. [初出の実例]「草枕もみぢむしろに替へたらば心をくだくものならましや〈宇多天皇〉」(出典:後撰和歌集(951‐953頃)羇旅・一三六四)
    2. 旅寝。また、旅。
      1. (イ) わびしい旅寝。
        1. [初出の実例]「さもこそは都のほかに宿りせめうたて露けき草まくらかな〈藤原隆家〉」(出典:後拾遺和歌集(1086)羇旅・五三〇)
      2. (ロ) わびしい旅。
        1. [初出の実例]「朝なけに見べき君とし頼まねば思ひ立ちぬるくさまくらなり〈寵〉」(出典:古今和歌集(905‐914)離別・三七六)
  3. [ 3 ] 中編小説。夏目漱石作。明治三九年(一九〇六)発表。同四〇年刊。俗世間を逃れて旅に出た青年画家と温泉宿の出戻り娘との交渉を通して、現実を第三者的にながめる非人情の世界を展開。

草枕の補助注記

[ 一 ]のかかり方については諸説ある。( イ )「たび(旅)」の「た」にかかるほうが古い用法で、これは、その古い用法とする説。( ロ )枕を「たく」(束ねる意)の意で「たご」の「た」にかかるとする説。( ハ )「旅」にかかる用法が転じたものとする説。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「草枕」の意味・わかりやすい解説

草枕
くさまくら

夏目漱石(そうせき)の中編小説。1906年(明治39)9月『新小説』に発表、07年1月刊の短編集『鶉籠(うずらかご)』に収める。作者自身、「美を生命とする俳句的小説で……美しい感じが読者の頭に残りさへすればよい」(「余が『草枕』」)と説くように、ロマンチシズムの傾向を濃くとどめた初期の芸術観を具体化した作品。「智(ち)に働けば角(かど)が立つ。情に棹(さお)させば流される。意地(いじ)を通せば窮屈だ」との書き出しはとくに有名である。とかく住みにくい人の世の煩いを逃れ、芸術のための桃源郷を求めて熊本郊外の温泉を訪れた画工が、宿の美しい娘那美(なみ)の妖(あや)しい言動に驚かされるというのが発端。那美は出戻りで、不羈奔放(ふきほんぽう)な魅力に富む女性だが、彼女を画中の人にしようとする画工の苦心を通じて、人の世はものの「見様(みよう)」でどうにでもなる、俗塵(ぞくじん)を離れた心持ちになれる詩こそ真の芸術だという独自の文学観、いわゆる非人情の美学が語られる。しかし、この文学観はのちに作者によって否定された。

三好行雄

『『草枕』(岩波文庫・旺文社文庫・講談社文庫・新潮文庫)』『越智治雄著『漱石私論』(1971・角川書店)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「草枕」の意味・わかりやすい解説

草枕
くさまくら

夏目漱石の中編小説。1906年発表。「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される」と,人の世の住みにくさを嫌って非人情の境地を追う青年画家と,才知あふれる女性との出会いを叙して,浪漫美の世界が見出されていく作品。作者の芸術観を提示した小説で,『坊つちやん』と並ぶ初期の代表作

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百科事典マイペディア 「草枕」の意味・わかりやすい解説

草枕【くさまくら】

夏目漱石短編小説。1906年《新小説》に発表。ある青年画家が温泉場で才気すぐれた女性に会い,その女性との交渉に山里の情景をからませたもの。あざやかな自然描写と東洋的な人生観,芸術観が示されている。余裕派を標榜(ひょうぼう)した漱石の初期代表作の一つ。

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とっさの日本語便利帳 「草枕」の解説

『草枕』

夏目漱石
山路を登りながら、こう考えた。
智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。\(一九〇六)

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旺文社日本史事典 三訂版 「草枕」の解説

草枕
くさまくら

明治後期,夏目漱石の小説
1906年発表。主人公の画工に託して,作者の当時抱いていた芸術観・非人情の考え方を表現した作品。

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世界大百科事典(旧版)内の草枕の言及

【小天[温泉]】より

…明治初期に開かれ,大正~昭和にかけて4~5軒の温泉宿があったが,今は1軒だけとなった。夏目漱石の《草枕》はここを背景にしたもので,当時の建物は漱石館となっている。【岩本 政教】。…

【夏目漱石】より

…《吾輩は猫である》は予想外の反響を呼び,作家漱石の文名があがった。この年《倫敦塔(ロンドンとう)》《薤露行(かいろこう)》を《猫》と並行して書き,翌年には《坊っちゃん》《草枕》を発表し,せきを切ったような旺盛な創作意欲は,大学教師との両立を困難にした。そして漱石を慕って家に出入りする小宮豊隆,森田草平,鈴木三重吉ら教え子を中心とする弟子たちのために木曜日を面会日とした。…

【ミレー】より

…死の年に,ローヤル・アカデミーの会長に就任している。日本では初期の代表作《オフィーリア》が早くから知られ,夏目漱石の《草枕》も一部の着想を得ている。【湊 典子】。…

※「草枕」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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