現行の法制度上では地方自治法の定める東京23特別区および政令指定都市の行政区の長を意味する。日本の地方制度に区長という職が登場したのは明治初期のことである。明治政府は,1872年(明治5)に自然村の存立を無視して,末端行政区画として大区・小区を設けた。大区に区長,小区に副区長ないしは戸長を配した。ところが自然村秩序と対立する大区・小区はうまく機能せず,明治政府は新たに郡区町村編制法(1878)を制定して,地方団体の再編成を行った。いわゆる都市部である〈三府(東京,京都,大阪)五港(横浜,神戸,長崎,新潟,函館)其他人民輻湊ノ地〉に法人格をもつ区制が敷かれ,下級官吏として区長が配された。区長は府知事,県令の指揮を受けつつ区会の議長を兼務して国政事務,団体事務の遂行に当たった。さらに1889年の市制施行にともない区は市となったが,東京市には引き続き15の法人区が,また大阪,京都市には行政区が設けられた。1920年代以降,名古屋,横浜,神戸市にも行政区が設けられた。区長はいずれも吏員であり,戸籍,徴税,徴兵などの窓口事務を担うものであった。第2次大戦後,東京の区は特別区に,他の大都市は政令市の行政区に移行した。特別区長と行政区長は多くの点で権能,性格を異にする。特別区は1975年4月以降,市に準ずる特別地方公共団体であり,区長は区民の直接公選によって選出される首長であり,議会および住民に対する権能も市長に準ずる。これに対して政令市の行政区長は市長に任命される吏員であり,政治的代表性をもたない。区長の権限は当該政令市の条例,規則に定められ多様であるが,おおむね市長の監督下に区役所事務を遂行する。これら法制度上の区長とは別に,農村部自治体の中には住民の地縁・血縁組織である部落会の長を区長と呼び,役場事務の一部をゆだねているところがある。
執筆者:新藤 宗幸
明治初期における地方行政区画である大区の長。1871年4月,政府は戸籍法を出し戸籍事務遂行のため新しく区を設け,戸籍吏として戸長・副戸長をおいた。地方官はこの戸籍吏に土地・人民一般の事務をも漸次取り扱わせはじめたので,旧来の町村役人との間に権限の競合がおこった。この矛盾解消のため,政府は翌72年旧町村役人を廃止し,旧来の郡村とは無関係に大区・小区という行政区画をつくり,大区に区長,小区に副区長あるいは戸長をおくとの布達を出した。区長は官選で官吏に準ずる身分を与えられたが,給与は地元負担であった。職務は布達の徹底,戸籍整備,租税徴収,小学校設置,徴兵調査などで,政府の中央集権政策を忠実に遂行するよう義務づけられた。民衆に対して権力をかさにきる強引な態度をとる例も多かったため,新政府に反対する農民騒擾(そうじよう)に際しては,大区役所や区長宅がしばしば攻撃の対象となった。
執筆者:大島 美津子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
さまざまな区(特別区、政令指定都市の区、地域自治区など)の長。地域を分けるときに「区」が用いられるが、なんらかの組織が設けられ、これが「区」とよばれることもある。地方自治法(昭和22年法律第67号)には、特別地方公共団体として特別区および財産区、それ以外に、政令指定都市に置かれる区または総合区、地域自治区が定められている。また、法令の定めとは別に、「区」が用いられることもあり、地理的な名称として用いられる場合もある。
特別区は、1952年(昭和27)の地方自治法改正により都の内部団体となり、区長の公選制が廃止されたが、1974年改正後、区長公選制は復活している。
政令指定都市の区長は市長の補助機関であり、市長が任命する。都市内分権による住民自治を実現するために、2014年の地方自治法改正により、政令指定都市の市長の権限に属する事務の一定のものを総合区長に執行させるため、条例で区にかえて総合区を設けることが認められている。総合区長には総合区の事務所の職員の任免権などが与えられ、議会の同意を得て任命される。総合区の区域内の住民には解職請求権が認められている(86条、252条の20の2)。
地域自治区の事務所の長は市町村長の補助機関であるが、合併特例法(正称「市町村の合併の特例に関する法律」平成16年法律第59号)では、事務所の長にかえて区長を置くことが認められている(24条1項。なお市町村合併時に特例的に設けられる地域自治区については、23条、25条にも定めがある)。
なお、いわゆる町内会や自治会の代表者が区長とよばれることがあり、条例の定めるところにより、区長が住民と市町村との連絡等を行うことにつき報酬が支払われることがある。
[荒木 修 2022年2月18日]
明治初期における地方行政区画である大区(だいく)の長。1871年(明治4)4月、政府は戸籍法を定め、戸籍事務遂行のため新しく区を設け、戸籍吏として戸長、副戸長を置いた。地方官はこの戸籍吏に土地、人民一般の事務をも漸次取り扱わせ始めたので、旧来の町村役人との間に権限の競合が起こった。この矛盾解消のため政府は翌72年、旧町村役人を廃止し、旧来の郡村とは無関係に大区・小区という行政区画をつくり、大区に区長、小区に副区長あるいは戸長を置くとの布達を出した。区長は官選で官吏に準ずる身分を与えられたが、給与は官給ではなく地元負担であった。職務は、布達の徹底、戸籍整備、租税徴収、小学校設置、徴兵調査などで、政府の中央集権政策を忠実に遂行するよう義務づけられた。民衆に対して権力を笠(かさ)に着る強引な態度をとる例も多かったため、新政府に反対する農民騒擾(そうじょう)に際しては、大区役所や区長宅がしばしば攻撃の対象となった。
[大島美津子]
『大島美津子著『明治のむら』(教育社歴史新書)』▽『亀卦川浩著『地方制度小史』(1962・勁草書房)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
明治期以降,地方行政の末端機構の長官の呼称。時期により別の役職となる。(1)大区・小区制による大区の長官をさし,1872年(明治5)から78年の郡区町村編制法公布まで続いた。同法により東京・大阪・京都など都市地域のなかに区が設けられ,その長官が区長とよばれた。(2)また98年の町村制度では町村合併によって町村内にも区がおかれ,その長が区長となった。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
…ニューヨーク市には,マンハッタン,ブロンクス,ブルックリン,クイーンズ,スタテン島の5区(borough)が設けられている。区長は公選であり道路,下水道などに行政権限をもつとともに,市長,助役,収入役と並んで市理事会Board of Estimateの構成員として市の立法と行政に関与している。政治的には区長は地区民主党組織の利害代表であることが多い。…
…ついで翌年,戸長・副戸長と旧町村役人(名主・庄屋など)との間におこる権限の競合に対処するため,旧町村役人の廃止と区制による統一を命ずる布告が出され,大区・小区制は形をととのえた。大区・小区の規模や行政吏の名称は府知事・県令の裁量にゆだねられ,各府県で異なったが,数ヵ町村をあわせて小区をつくり,数ヵ小区をあわせて大区とし,大区に区長,小区に戸長をおくのが一般的であった。旧体制を末端から否定していくことをめざした人為的な行政区域づくりで,旧町村は否定され,区長・戸長は新政府への忠実さを基準に官選され官吏に準ずる扱いをうけた。…
※「区長」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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