蒸気で蒸してつくる料理。まんじゅう,蒸しようかんなどの蒸菓子をこの名で呼ぶこともある。平安時代にはすでに使われていたことばで,《大和物語》には〈庭に生たるな(菜)をつみてむし物といふものにして〉という記述がある。甑(こしき)を用いて米などを蒸すことは古墳時代から行われており,菜を蒸すことももちろん可能であったが,《延喜式》に〈茹菜〉の語があり,菜の蒸物というのは,菜のゆでものであったかもしれない。《伊呂波字類抄》には〈茹〉と〈蒸〉とは同義とされている。室町時代には〈蒸筍(むしたけ)〉が見られる。これはタケノコを蒸したもので,京都醍醐のそれが名物であった。
現在の日本料理でよくつくられる蒸物は,卵汁を用いるものと魚貝類を主材料とするものがほとんどである。前者の代表的なものは茶わん蒸しで,これにうどんを入れたおだまき蒸し,豆腐を加え,葛(くず)あんをかける空也(くうや)蒸しなどのほか,卵汁だけでつくる卵豆腐といったものもある(卵)。魚貝類を使うものでは,ふたのある鉢を用いるちり蒸し,かぶら蒸し,そば蒸しなどのほか,塩蒸し,酒蒸しがある。ちり蒸しはタイ,アマダイ,オコゼ,タラなどに豆腐や野菜を取り合わせ,だしを注いで蒸し,もみじおろしと刻みネギを薬味してぽん酢しょうゆで食べる。タイの頭を使った場合はかぶと蒸しなどと呼ぶ。かぶら蒸しは,聖護院(しようごいん)カブなどの良質のカブをすりおろして卵白を混ぜ,下蒸ししたタイ,アマダイ,エビなどの上にたっぷり載せ,酒(さか)だし(酒を多めに加えただし)を張って強火で3~4分蒸し,葛あんをかけ,おろしワサビを添える。そば蒸しは,下蒸ししたタイ,アマダイ,鶏肉などに,かためにゆでたそばを載せ,そばつゆを張って蒸し,もみノリと刻みネギを添えて供する。塩蒸し,酒蒸しは上記の白身の魚やアワビに塩をして蒸器で蒸す。アワビの場合は殻つきのまま表面の汚れを洗って塩をふり,そのまま強火で30分ほど蒸す。これを冷まして身をはがし取って洗い,内臓などを除いて刺身につくり,ワサビじょうゆで食べる。酒蒸しは,塩蒸しの過程でときどき酒をふりかけても,塩をたっぷり入れた玉酒(たまざけ)(酒に同量の水を加えたもの)で蒸してもよい。
執筆者:鈴木 晋一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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