蔵志(読み)ぞうし

改訂新版 世界大百科事典 「蔵志」の意味・わかりやすい解説

蔵志 (ぞうし)

日本最初の実証解剖書。古医方派の後藤艮山(こんざん)に学んだ京都の官医山脇東洋が,中国の内景五臓六腑)説に疑問をもち,動物を解剖して実地に生物の内部構造を確かめたうえで,1754年(宝暦4)閏2月7日に京都所司代の官許を得て刑死体の解剖を行い,5年後の59年にこの解剖所見と解剖図を発表したのが本書で,付録に数編の東洋の医説や交友書簡を収めている。解剖図は門人浅沼佐盈(さえい)が描いた原図をもとに,木版輪郭の線だけを彫って墨刷りし,内部は手彩色された。図はわずか4葉にすぎず,その解剖所見はいまだ幼稚簡粗であったが,実際に目で確かめた実証精神にあふれ,中国の内景説と違う点を指摘した点で,日本近代医学のあけぼのとなった書として注目される。これが刺激となって各地で解剖の実施が相次いで行われるようになり,しだいに観察所見が深められていった。後年,江戸の杉田玄白らの骨ヶ原(小塚原)の解剖も,山脇東洋の仕事が引金となって実施されたものであった。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「蔵志」の意味・わかりやすい解説

蔵志
ぞうし

日本最初の実証的解剖書。著者は山脇東洋(やまわきとうよう)。1759年(宝暦9)刊。全二巻。江戸中期に、実証を重んじ日本の医学の革新を図った古方医学派の後藤艮山(こんざん)に学んだ京都の官医山脇東洋が、中国の五臓六腑(ごぞうろっぷ)説を疑い、自らの目で人体内部の構造を確かめるため、1754年(宝暦4)に京都所司代の許可を得て刑死体の解剖を行った。この記録をまとめたのが本書で、手彩色の解剖図四葉と解剖所見のほか、数編の東洋の医説や知友門弟らの手紙を収めている。図や所見は幼稚で簡粗であったが、実際に観察した実証精神にあふれており、日本の近代医学のあけぼのを告げる書として注目される。これが刺激となって各地で解剖が行われるようになり、観察が深められた。

[宗田 一]

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「蔵志」の解説

蔵志
ぞうし

日本初の実証的解剖書。2巻。山脇東洋著。1759年(宝暦9)刊。東洋は1754年閏2月7日,京都六角獄舎の庁前で刑死体を解剖(観蔵)。その解剖所見は紙数6枚の短文だが,日本最初の解剖記録で,本書の冒頭をかざる。浅沼佐盈(さえい)の蔵志図4枚,解剖1カ月後に行われた慰霊祭祭文も載せる。大腸・小腸の区別を見落とし,膀胱の上が腸につらなり,脊椎が17個あるなど誤りも多いが,西洋解剖書の正確さと,物を先にして理を後にすることの重要性をのべている。「解体新書」が翻訳であるのに対し,本書は実地の観察である点に意義がある。刊行後,解剖反対論ないし無用論も高まったが,解剖は全国各地で行われるようになった。

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百科事典マイペディア 「蔵志」の意味・わかりやすい解説

蔵志【ぞうし】

日本最初の人体解剖観察書。山脇東洋著。1759年刊。2巻,図4葉を含む。1754年の刑死体解剖の所見によるもので,今日からみれば誤りも多いが,実証主義的医学のさきがけとなった意義はきわめて大きい。
→関連項目山脇東洋

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旺文社日本史事典 三訂版 「蔵志」の解説

蔵志
ぞうし

江戸中期,山脇東洋の医学書
1759年刊。2巻。日本最初の解剖記録。'54年,死刑囚の死体の解剖観臓を行い,その観察記録をまとめたもので,西洋医学の優秀性を認めた。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「蔵志」の意味・わかりやすい解説

蔵志
ぞうし

山脇東洋」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内の蔵志の言及

【医学】より

…このことが,古医方派の医師たちに実証的態度を育てた。たとえば,山脇東洋は1754年(宝暦4),人体解剖を観察して《蔵志》に記録し,それまで信じられていた五臓六腑の説の誤りであること,そして,オランダ渡来の西洋解剖書の記載がより信ずるに値することを知った。東洋は,宮廷医を務め,また古医方の大家として名声を得ていたので,彼の人体解剖の経験は大きな波紋をおこした。…

【解剖学】より

…1世紀ころに出た《霊枢》(《黄帝内経》)には人体表面や内部の構造が解かれている。日本では京都の山脇東洋が1754年(宝暦4)の2月7日に最初の人体解剖を行い,五臓六腑説が正しいかどうかを確かめ,5年後に《蔵志》を出版した。ついで杉田玄白,前野良沢らは71年(明和8)3月4日に江戸で人体解剖を行い,ドイツ人クルムスの著,俗にいう《ターヘル・アナトミア》を翻訳し《解体新書》(1774)を出版した。…

【山脇東洋】より

…これが日本最初の医学的解剖で,その1ヵ月後日本最初の解剖慰霊祭を行ってその霊をなぐさめている。この記録をまとめて刊行したのが《蔵志》(1759)で,これが刺激となって各地で実証的解剖の機運が高まった。東洋は越前府中(現,福井県武生市)の奥村南山(良竹)に次男東門と高弟永富独嘯庵(ながとみどくしようあん)を派遣して吐方を学ばせ,当時の古医方派に欠ける汗・吐・下の三法の完備をはかり,古医方派の古典研究の良書に校訂復刻した《外台秘要方》を加えるなど古医方の大成を期し,不遇時代の吉益東洞を見いだして世に出し,古医方派四大家の一人と称せられた。…

※「蔵志」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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