蘇民将来(読み)そみんしょうらい

精選版 日本国語大辞典 「蘇民将来」の意味・読み・例文・類語

そみん‐しょうらい ‥シャウライ【蘇民将来】

[1] 「備後風土記」に見える説話主人公の名。貧窮の兄と富裕の弟とがあり、神が宿を求めたとき、弟は応ぜず、兄の蘇民将来は宿を貸してもてなした。その報いとして、弟の子孫はほろぼされ、兄の子孫は疫病を免れることになったという。現在各地の神社などで行なわれる茅(ち)の輪くぐり行事の由来譚になっている。
[2] 〘名〙 疫病除けのための護符。家々の門口に「蘇民将来子孫の宿」と書いて貼ったり、木製六角形の棒に「蘇民将来」などと書いて、社寺小正月に分与したりする。蘇民守り。《季・新年》 〔文明本節用集(室町中)〕
御湯殿上日記‐大永八年(1528)正月六日「きおんのそみんしやうらいまいる」

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デジタル大辞泉 「蘇民将来」の意味・読み・例文・類語

そみん‐しょうらい〔‐シヤウライ〕【×蘇民将来】

神に宿を貸した善行によりの輪の法を教えられ、子孫に至るまで災厄を免れることを約束された説話上の貧者の名。→ の輪
疫病よけの護符の名。柳の木を六角または八角の塔状に削り、「大福長者蘇民将来子孫人也」などと墨書し、小正月に諸所の社寺で分与する。

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改訂新版 世界大百科事典 「蘇民将来」の意味・わかりやすい解説

蘇民将来 (そみんしょうらい)

護符の一種晴明判魔よけの星象)や〈蘇民将来子孫〉などの文字を記した六角柱または八角柱の短い棒で,房状の飾りや紐をつけて帯に結び下げるようになったものもある。正月に,牛頭天王(ごずてんのう)と縁の深い京都の八坂神社はじめ,信濃国分寺八日堂,愛知の津島神社新発田の天王社など各地の社寺で配られる。また岩手の黒石寺薬師堂では,正月7日に蘇民祭といって餅や数百本の六角形のヌルデの木が入った蘇民袋を裸の男たちが東西に分かれて奪いあう行事があり,これを得たものはその年幸運であるという。蘇民将来には,紙や板の札に〈蘇民将来子孫之門〉とか〈蘇民将来子孫繁昌也〉と書いて,家の戸口に貼って魔よけとしたり,畑に立てて虫よけとする風もある。《備後国風土記》逸文には,旅に出た武塔神(素戔嗚(すさのお)尊)が宿を請うたところ,富裕な弟の巨旦(こたん)将来はことわったが,貧しい兄の蘇民将来は宿にとめ歓待したため,茅の輪(ちのわ)の護符を腰につけるように教えられ疾病を免れたと語られている。この説話は旧暦6月の夏越(なごし)祭の茅の輪行事の由来譚ともなっているが,同様なモティーフは猟師の間で伝えられる磐司磐三郎譚などの兄弟譚にもみられる。また《簠簋(ほき)内伝》の牛頭天王縁起には,五節の祭に〈蘇民将来子孫也〉と記して,信教すれば無病息災であると記されている。蘇民将来につけられる晴明判などからみて,この蘇民将来の護符の伝播には修験者や陰陽師などの宗教者の関与があったことが考えられる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「蘇民将来」の意味・わかりやすい解説

蘇民将来
そみんしょうらい

説話の主人公の名、転じて護符の一種。『備後国風土記(びんごのくにふどき)』逸文によると、須佐雄神(すさのおのかみ)が一夜の宿を借りようとして、裕福な弟の巨旦(こたん)将来に断られ、貧しい兄の蘇民将来には迎えられて粟飯(あわめし)などを御馳走(ごちそう)になった。そこでそのお礼にと、「蘇民将来之(の)子孫」といって茅(ち)の輪(わ)を腰に着けていれば厄病を免れることができると告げた。はたして、まもなくみんな死んでしまったが、その教えのとおりにした蘇民将来の娘は命を助かったという。民俗ではこの神は祇園牛頭(ぎおんごず)天王とも習合しており、八角柱の木片に「蘇民将来之子孫也(なり)」などと書いた護符の類を蘇民将来といっている。伊勢(いせ)地方などでは家の門口に「蘇民将来之子孫」などと書いた注連(しめ)をかけて災厄除(よ)けとしている例も多く、また岩手県奥州(おうしゅう)市水沢(みずさわ)区の黒石寺で旧正月7日に人々が裸で蘇民袋を奪い合う蘇民祭などもよく知られている。

[新谷尚紀]

『『備後国風土記』逸文(『日本古典文学大系2 風土記』所収・1958・岩波書店)』

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百科事典マイペディア 「蘇民将来」の意味・わかりやすい解説

蘇民将来【そみんしょうらい】

護符の一種。八角柱の木片に〈蘇民将来子孫也〉と書いたもの。京都の祇園,上田市の国分寺,新発田市の天王寺等で発行,水沢市(現・奥州市)の蘇民祭は裸祭で護符を取り合う。厄病神(または牛頭(ごず)天王,武塔神,素戔嗚(すさのお)尊)が旅に飢え,宿をこうたが,金持の巨旦(こたん)将来は拒絶,貧しい弟の蘇民将来は茅(かや)の床に粟(あわ)の飯で歓待した。神はお礼に茅の輪と護符を残し,これを持つ者は無病息災と告げたという話に由来する。
→関連項目天王信仰【ほ】【き】内伝

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世界大百科事典(旧版)内の蘇民将来の言及

【祇園信仰】より

…牛頭天王については天竺(てんじく)(インド)の祇園精舎(ぎおんしようじや)の守護神とする説をはじめ諸説があるが,要するに疫病流行など不慮の災厄にさいなまれつづけた古代の人々が,既往の信仰・伝説とも結び合わせながら信仰の対象として育成した神格である。この神は別に〈武塔神(むとうしん)〉の名をもつが,それは《備後国風土記逸文》にみえる〈蘇民将来(そみんしようらい)〉と〈巨旦将来(こたんしようらい)〉という兄弟の伝説にもとづく。すなわち,一夜の宿をもとめた武塔神を,富裕な弟の巨旦はことわったが,貧しい兄の蘇民は粟柄(あわがら)を敷いて座席をしつらえ,粟飯を献じて心から歓待した。…

【天王信仰】より

…《簠簋(ほき)内伝》によると天界にあった天刑星が,地上に降りて,牛頭天王と名のり,南海に赴く。途中,巨旦(こたん)大王に宿を求め,断られるが,貧しい蘇民将来(そみんしようらい)の宿で丁重にもてなされる。牛頭天王は,やがて南海の竜王の娘頗梨采女(はりさいによ)を妻にもらい,8人の王子が誕生する。…

【厄病神】より

…厄病神歓待の風習は,ある意味で盆の無縁仏や餓鬼仏を精霊とは別にまつる風に対応するものともいえる。厄病や疱瘡よけのため,〈鎮西八郎為朝御宿〉といった武将の名のほか,〈蘇民将来(そみんしようらい)子孫也〉とか仁賀保金七郎,小浜六郎左衛門,釣船清次など,厄神を助けたり泊めたりしたという者の名前を記して戸口にはっておく風習もある。厄病を免れる,または軽くするという旨の〈疫神のわび証文〉や〈疫神退散状〉も各地に伝えられている。…

※「蘇民将来」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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