議会制度のもとで、本来ならば議会が法律で定めるべき事項について、緊急の必要がある場合に、法律にかわるものとして行政府が発する命令。19世紀以降、ドイツの立憲君主制下の憲法で広く行われた制度である。日本では、大日本帝国憲法第8条で緊急勅令として認められていた。帝国議会の閉会中、天皇は、公共の安全を保持し、またはその災厄を避けるために、緊急の必要がある場合に、法律にかわる勅令を発することができた。この緊急勅令は、次の帝国議会に提出され、議会が承諾しないときは効力を失うとされた。日本国憲法では、緊急命令を認めず、第54条で、衆議院の解散中に、国に緊急の必要があるときは、内閣は参議院の緊急集会を求めることができると定めているだけである。この緊急集会でとられた措置は、次の国会の開会後10日以内に衆議院の同意を得られなければ効力を失うとされている。
[村上重良]
労働組合法では、使用者が労働委員会の不当労働行為救済命令に対して当該命令の取消しの訴えを提起した場合、判決確定に至るまで当該命令の全部または一部に従うべき旨を、受訴裁判所が発する命令のこと。この命令は、受訴裁判所が当該労働委員会の申立てにより、決定をもって行う(27条の20)。使用者の命令違反行為は処罰される(32条)。使用者が行政訴訟を提起すると救済命令の確定が遅れ、団結権侵害状況を迅速に除去するという不当労働行為制度の趣旨が実現できないため、この命令制度が設けられた。
[村下 博・吉田美喜夫]
(1)立法機関の閉会中に,本来立法機関が決定すべき事項について,緊急の必要がある場合に,行政機関が発する命令。この制度は,元来,外見的立憲主義を採用していた19世紀のドイツで発達した(1818年バイエルン憲法,50年プロイセン憲法)。日本では,明治憲法8条の〈法律ニ代ルヘキ勅令〉,70条の勅令による〈財政上必要ノ処分〉がこれにあたる(緊急勅令)。緊急命令を発した場合には,政府はこれを次回の議会に提出して,その承諾を得なければならない。現行憲法下では,緊急命令の制度はいっさい認められておらず,衆議院が解散されていて国に緊急の必要がある場合には,参議院の緊急集会において臨時の措置を採ることができると規定するのみである(日本国憲法54条2項,3項)。また,警察法上,内閣総理大臣は緊急事態を布告することができる(警察法71条)。それぞれ事後的に,前者は衆議院の同意を,後者は国会の承認をうけなければ効力を存続しえない。
執筆者:中西 又三(2)労働委員会が発した不当労働行為の救済命令に,暫定的に従うよう使用者に命じる裁判所の命令。救済命令を不服として使用者が取消訴訟を提起すると命令は確定せず,使用者が命令に違反しても制裁をすることができない状態になる。そこで,命令内容を迅速にしかも効果的に実施するという観点から,労働組合法は,裁判所が労働委員会の申立てに基づき,判決が確定するまで労働委員会命令に従うべき旨命じることを認め(27条8項),緊急命令違反を過料に処すと定めた(32条)。
執筆者:道幸 哲也
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…これらの手続の最中には,命令が確定しないので強制的に命令を履行させることができなくなる。その間に,組合活動が大幅に沈滞する場合も少なくないので,労働組合法は,取消訴訟が提起された場合には,裁判所は緊急命令を発しうると定め(27条8項),暫定的な救済措置を認めている。 確定した救済命令もしくは緊急命令に違反すると10万円(作為を命じる命令の場合には,その命令不履行の日数1日につき10万円の割合で算定した金額)以下の過料に処される(32条)。…
… 命令の効力はその性格上,法律に劣る。明治憲法下においては,立法手続をとりえない緊急の場合に法律に代わる緊急命令を制定し(明治憲法8,70条),法律から独立した独立命令を制定することができたが(9条後段),このような副立法は今日認められていない。 歴史的には,議会の地位が低く,君主に直属する行政権が強大であった時代には,命令が支配的な役割を有していたが,議会の地位が高まるにしたがって,法律の支配が確立し,命令は法律を執行し,または法律の委任に基づくもののみとなった。…
… 命令に不服の者は,中労委に再審査の申立てをするか,もしくは裁判所に命令の取消訴訟を提起しうる。後者の場合には,裁判所は,暫定的救済措置として緊急命令を発することができる。この緊急命令もしくは確定した救済命令の違反は過料(32条)に処せられ,確定判決によって支持された救済命令に違反した場合には,1年以下の禁錮もしくは10万円以下の罰金に処せられる(28条)。…
※「緊急命令」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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