証人が一定の事項に関して証言を拒むことができる権利をいう。日本国憲法第38条1項は、「何人(なんぴと)も、自己に不利益な供述を強要されない」(供述拒否権、黙秘権)と規定している。
[内田一郎]
憲法上の保障を実現するため刑事訴訟法第146条は、「何人も、自己が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受ける虞(おそれ)のある証言を拒むことができる」としている。なお、近親者が前記と同様のおそれのある場合も、証言拒絶権が認められる(同法147条)。守秘義務を負う医師、歯科医師、助産師、看護師、弁護士(外国法事務弁護士を含む)、弁理士、公証人、宗教の職にある者またはこれらの職にあった者は、業務上委託を受けたため知りえた事実で他人の秘密に関するものについて、原則として証言を拒むことができる(同法149条)。これらの職業に対する社会的信頼の確保が、刑事裁判における真実の発見の利益よりも重要であると考えられるからである。ただし、判例は、新聞記者にはこれを認めていない。裁判所は、証人尋問に先だち、証人に証言拒絶権を告知することとなっている(刑事訴訟規則121条)。
[内田一郎・田口守一]
日本国の裁判権に服する者は、裁判所の証人尋問の決定に従って、証人として出頭し、供述し、宣誓する義務を負っている(民事訴訟法190条)。もし証人義務のある者が正当な事由なく出頭しないときは、訴訟費用の負担・過料・罰金・拘留等の制裁が課せられる(同法192条、193条、200条、201条)。しかし、法律の定める事由があるとき(同法196条、197条に列挙)は、証人は証言することを拒否する公法上の抗弁権を有する。これが証言拒絶権である。この権利を行使するかどうかは、証人の自由であり、証人が証言を拒むときは、その理由を疎明することを要する(同法198条)。裁判所はその理由の有無について審理し、証言拒絶の当否の裁判をしなければならない(同法199条)。
[内田武吉・加藤哲夫]
議院から出頭を求められた証人の場合(証人喚問)も、民事訴訟法に準じた証言拒絶権が認められている。すなわち、証人またはその近親者が罪を負うおそれのある事実、医師・弁護士・公務員等が職務上知りえた事実のある場合に証言を拒むことができる。これ以外の場合に証言を拒否すると議院の告発によって処罰される。
[編集部]
…ただし証人は,自己または近親者が刑事訴追や有罪判決を受けるおそれがある証言,弁護士・医師等について,その業務上知りえた他人の秘密に関する証言等,法の定める一定の事項については証言を拒むことができる。これを〈証言拒絶権〉という(民事訴訟法196条,197条,刑事訴訟法146~149条)。また証人は旅費・日当および宿泊料を請求することができる(〈民事訴訟費用等に関する法律〉18条,刑事訴訟法164条)。…
…親子関係に発する血族関係と婚姻関係に発する姻族との総称。社会関係の一つとしての親族関係は,夫婦・親子・キョウダイ(兄弟姉妹)という3種の基本的関係およびそれらを組み合わせた関係の連鎖によってなり,父方・母方(夫方・妻方)の双方にわたり,本来双系的な組織である。その範囲は,任意の個人を中心として,その人との続柄が親族名称を用いて説明できるような広がりをもっている社会的ネットワークである。日本の親族の場合,個人単位の関係に家単位の家連合と呼ばれる枠組みによって規定されつつ機能し,構造化されてきた。…
※「証言拒絶権」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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