警蹕(読み)ケイヒツ

デジタル大辞泉 「警蹕」の意味・読み・例文・類語

けい‐ひつ【警×蹕】

天皇貴人通行などのときに、声を立てて人々をかしこまらせ、先払いをすること。また、その声。「おお」「しし」「おし」「おしおし」などと言った。みさきばらい。みさきおい。けいひち。
前駆ぜんく御随身みずいじん御車にひ、―にして儀式たやすからざりしに」〈保元・下〉

けい‐ひち【警×蹕】

けいひつ(警蹕)」に同じ。
「―など、『おし』といふ声聞こゆるも」〈二三

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精選版 日本国語大辞典 「警蹕」の意味・読み・例文・類語

けい‐ひつ【警蹕】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「蹕」は道行く人の足を止める意 ) 声をかけてまわりをいましめ、先払いをすること。天皇の出入の時、貴人の通行の時、あるいは神事の時など、下を向いて、「おお」「しし」「おし」「おしおし」などと言ったもの。また、その声。けいひち。みさきおい。
    1. [初出の実例]「警蹕侍衛如常」(出典:内裏式(833)元正受群臣朝賀式)
    2. 「吾君御幸の時は、〈略〉前駆御随身御車に副、警蹕(ケイヒツ)にして儀式たやすからざりしに」(出典:金刀比羅本保元(1220頃か)下)
    3. [その他の文献]〔漢書‐淮南厲王長〕

警蹕の語誌

( 1 )古くは帝王に対してのみ用いられたことは、「史記‐淮南衡山列伝」や、前漢高祖の末子淮南厲王長の例によっても知ることができる。
( 2 )日本でももっぱら天皇の出御・入御に際して行なわれ、やや降って陪膳の折にも行なわれた(「枕草子‐二三」)が、次第に高貴な卿相公達もまた、私行の時に密かに行なうようになった(「江談抄‐一」)。
( 3 )発声者の順位や作法は細かく定められていた。なお、天皇の召しを受けた時などの発声は、「称唯(いしょう)」と言う。


けい‐ひち【警蹕】

  1. 〘 名詞 〙けいひつ(警蹕)
    1. [初出の実例]「昼の御座のかたには、御膳まゐる足音たかし。けいひちなど『おし』といふこゑきこゆるも」(出典:枕草子(10C終)二三)

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普及版 字通 「警蹕」の読み・字形・画数・意味

【警蹕】けいひつ

天子の出入のとき、人を制止すること。〔史記、淮南王長伝〕(王)驕恣にしての法を用ひず。出入するごとに蹕をし、制をし、自ら法令を爲(つく)り、天子に擬(ぎ)す。

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改訂新版 世界大百科事典 「警蹕」の意味・わかりやすい解説

警蹕 (けいひつ)

先払の声。〈けいひち〉ともいう。天皇が公式の席で,着座,起座のさい,行幸時に殿舎等の出入りのさい,天皇に食膳を供えるさいなどに,まわりをいましめ,先払をするため側近者の発する声をいう。古代中国皇帝が外出時に,道行く人を止め,また道を清めさせた風習が日本に移入されたもの。《枕草子》には,天皇に昼の食膳を供する蔵人(くろうど)が,足音高く,〈をし,をし〉といったとあり,ほかに〈アウ,アウ〉(《安斎随筆》)とも知られる。古くは声高にいい,後代では微音でいうふうにかわり,言葉も,出御のときは〈ケイーヒ〉,還御のときは〈ケイヒー〉と唱えた。行幸のさいの警蹕役は近衛の将が行うが,尊長に敬意をはらって上皇等の御所辺では警蹕をやめることがある。天皇に準じて高位の者も行うようになり,また神事のさいも,神降,神昇,奥殿の開扉,閉扉などにも行われた。現行の神事のさいには〈オー,シー〉などと唱えている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「警蹕」の意味・わかりやすい解説

警蹕
けいひつ

先払いのこと。元来、中国で、天子が出入するとき、先払いの者があたりに声をかけて道筋の人々を静めることをいった。出るときには「警」(気をつけよ)、入るときには「蹕」(止まれ)と声をかけて制止した。転じて、天皇や貴人が出入する際、先払いが声をかけてあたりを静めることをいう。また、供御(くご)(天皇の食物)を奉るとき、神供(神前への供物)を奉るとき、神楽(かぐら)を奏するときなどにも行われ、「おお」「しし」「おし」「おしおし」などと声をかける。

[藤井教公]

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