もっぱら水田の灌漑に用いられた日本独特の人力揚水機。回転する羽根車で水を揚げる。水を揚げる側と反対の側に回ってくる羽根車を,人が足で押し下げつつ回したので,この名がつけられた。固定して設置するのでなく,必要なところへ随時運んで使うことができる。一般に,水路より田面までの高さが約1m以内の揚水に用いられたが,さらに高い水田へは,2台,3台と連ねて使うこともあった。また,30cm程度の揚程のところで使う小型の手回し型もあった。江戸時代中期の新田開発にともない,水がかりの悪いところにも水田が増し,その必要から,それまでの効率が悪く故障も多かった〈竜骨車〉にかわって,寛文年間(1661-73)に現れ,わずかの間に各地に普及した。ほとんどの竜骨車が2人の労力を要したのに対し,踏車は1人で足りる。なお,踏車をもたない地方や農家では,〈取桶〉または〈ふりつるべ〉といって,桶に2対の綱をつけたものが使われ,2人1組で,水路の水をすくって水田にふり上げるようにして水を揚げた。
執筆者:堀尾 尚志
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…【冨岡 倍雄】
[日本]
日本での水車の存在は,文献上は中世中ごろの京都近郊,大堰(おおい)川,宇治川の例にまでさかのぼるが,日本の水田灌漑は,一般に用水路によるか簡単な堰堤を設けることで容易に行えるので,水車による揚水に依存する度合は低かった。臨時的に用いる人力による揚水機にしても,17世紀に使用された竜骨車は製造がむずかしく普及しなかったし,代わって18世紀に登場した踏車も新たに用水路を作ることが困難な河川下流の干拓地や新田地帯で普及したにとどまる。総じて水車の利用は灌漑よりは他の用途で伸びた。…
…井戸の上に滑車をつるして手で巻き上げる〈つるべ〉がこれに続く。そして,といまたは筒を鎖上に並べてくみ上げる竜骨車タイプのもの(人力で動かす場合は踏車となる),さらに車輪の円周上におけまたは筒をとりつけて回転する筒車(ノーリア)タイプのものなどが現れた。これらの揚水機の動力源は,時代とともに,人力,畜力から水車や風車,やがて蒸気機関,電力へと移行していった。…
※「踏車」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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