①は中世古辞書では「通事」という表記が多いが、後に「通詞」と書くことが多くなる。キリシタン資料では「つうず」が一般的で、「日葡辞書」では「つうじ」と「つうず」を同等に扱っている。
江戸時代の長崎の地役人で通訳官。一般に通事は中国語の唐通事を,通詞はオランダ通詞を指した。ともに通訳業務のほか,諸法令の伝達執行,貿易品の評価や日本側役人として取引折衝にあたり,貿易改革などについての意見上申,外国人や出入商人の管理統制にもあたる商務官でもあった。基本的な機構が確立した時期の1708年(宝永5)の組織は,唐通事は上から風説定役1,目付2,大通事4,小通事5を定員とし,ほか稽古通事12,同見習4人。オランダ通詞は目付2,大通詞4,小通詞4が定数で,ほかに稽古通詞11人から成る。双方ともに享保期以降各職階に〈新株〉の過人・並・格・見習が補任されたが,唐通事にはより上席の頭取・諸立合・御用通事が設けられ,唐通事のほうが時代をとおして高給・多人数であった。これは唐船貿易の取引高・利潤がオランダ貿易をしのいだからであるが,由緒や職権の相違も否定できまい。すなわち唐通事は1603年(慶長8)に奉行が任命した初代馮六(平野氏の祖)以来,潁川(えがわ)(陳,葉),彭城(さかき)(劉),林(はやし)(林),神代(熊)など40余姓のすべてが在住の有力明人とその後裔で,長崎の唐寺の建立に尽くし,来航の中国人とは寺の維持・葬祭・唐僧招請などを通じて同郷関係を保ち続け,1715年(正徳5)以降貿易許可証である〈信牌〉は唐通事の名で付与されたのである。一方オランダ通詞には,唐通事にはない参府カピタンに付き添って将軍に拝謁する重要な江戸番があり,格式上唐通事の上席とされたが,平戸商館時代の南蛮通詞(ポルトガル語通訳)以来の西,肝付(吉雄),名村の各家をはじめ,延べ三十数家すべてが日本人で,平戸時代には商館の雇人であった。したがって語学力,相手側に対する発言力において遜色があった。個人では詩・書の彭城宣義・林道栄,唐金銀の輸入策により町年寄末席並に挙げられた林市兵衛が知られ,一方蘭学・近代科学史上有名な西玄甫,吉雄耕牛,志筑忠雄,西善三郎,本木昌三らも前職は通詞であった。
執筆者:中村 質
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…古代の通訳。通事とも書く。〈ヲサ〉は古代朝鮮語であろう。大化前代に中国大陸や朝鮮半島諸国との通訳を職掌として世襲する渡来人系氏が生まれ,のちに姓(かばね)としての日佐(おさ)を帯びた。しかし,時代の変化により,これらの氏と異なる訳語・通事が任命され,遣隋使小野妹子には通事鞍作福利(くらつくりのふくり)が随行し,701年(大宝1)任命の遣唐使の大通事には垂水広人(たるみのひろひと)がみえる。また722年(養老6)には,蝦夷・隼人の征討に訳語がみえている。…
…当事者間において言語の相違その他の理由により意志疎通に支障がある場合,両者の間にたって互いの意図を伝達する人。日常会話,商談,外交交渉,討論,講演などに多く用いられ,まず逐語的に正確に訳すことが求められる。したがってつねに対話のわき役で,古代から多く用いられていたにもかかわらずその名が残ることはまれであった。しかし中世末期から近代初頭にかけて異文化間の接触が多くなり,伝達内容が複雑になるにしたがって,通訳の教養,人格,総合的能力も求められるようになってきた。…
…江戸時代,唐通事・蘭通詞が作成し,長崎奉行を経て幕府勘定所に進達された《唐船貨物改帳》《阿蘭陀船荷物売立寄帳》など7種の帳簿を,暦の年度に従って仕分け表題したもの。唐・蘭船の積荷品目・数量,売上品の数量・代価,輸出する日本商品の数量・代価などを克明に記帳する。1709‐14年(宝永6‐正徳4)の13冊を収める。江戸時代の外国貿易資料としてきわめて信頼度の高いものである。【山脇 悌二郎】…
…長崎港の対外取引において代表的な明治以前の貿易をいい,(1)ポルトガル船に対する1571年(元亀2)の開港から鎖国までのいわゆる南蛮貿易時代,(2)1633年(寛永10)に最初の鎖国令が出てから幕末開港までの対外貿易独占時代,(3)1859年(安政6)3港開港後のいわゆる自由主義貿易時代,に区分される。(1)南蛮貿易期 開港後まもなく,一時イエズス会領になったので(1580),それまで九州各地に渡来したマカオからのポルトガル船や,マニラ発のスペイン船は長崎に集中するようになり,江戸時代に入ると唐船(江戸時代には明,ついで清朝船だけでなく,東南アジア各地からのジャンクもそうよばれた)の入港も急増し,さらに朱印船の中心的な発着港として栄えた。…
※「通事」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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