改訂新版 世界大百科事典 「都市財政」の意味・わかりやすい解説
都市財政 (としざいせい)
都市財政とは,市制施行されている地方公共団体の財政であり,地方財政の一部を構成する。都市財政の範囲やしくみは,時代によっても国によっても大きく異なる。アメリカ合衆国のばあい,都市財政が担っている行政事務内容は都市ごとに異なっており,日本のそれが全国的にほとんど画一的であるのに対して全く対照的である。日本の地方財政は先進資本主義諸国の中でも北欧諸国を除けば比較的規模が大きい。これは自主財源の中心である地方税が税源の3分の1しか地方に配分されないなかで,国庫支出金や地方交付税などの依存財源が多いからである。こうして日本の場合には地方財政が中央政府からのコントロールを受けやすいしくみになっている。都市財政は連邦制の国でも集権制の国でも基本的には市町村レベルの財政であり,行政制度上は市財政としてあらわれる。しかし一部には州や県レベルの財政を合わせて有するものもあり,東京都23区,ワシントンD.C.,ハンブルクなどは,その例といえよう。都市財政がどのような〈行財政の機能分担〉を有するかは国によって異なるが,基本的には義務教育,生活道路,コミュニティ活動のための施設,保育所や幼稚園,老人福祉施設,上下水道,ごみの収集と処理などの生活基盤に関する社会資本,工場誘致や都市計画,市街地再開発,農業基盤などの産業活動の振興のための社会資本の充実を行っており,また,それに関連したサービスの供給を行っている。
日本では,高度経済成長によって人口が大都市圏に集中するなかで,大都市と周辺の衛星都市財政は大きな問題をかかえるようになった。とくに困難であったのは,大都市周辺の人口急増都市財政である。これらの都市においては,もともと田畑や原野であったところに突然出現した数万人のベッドタウンのために,上下水道,ごみ焼却場,幼児施設,義務教育施設など,ワンセットの生活基盤を供給しなければならず,膨大な財政需要の発生に見舞われたのである。
こうした財政需要と都市財政の間の落差への対応は,(1)国からの補助金の増大や地方債,地方交付税の需要項目の算定法式の改善などの依存財源による方式,(2)税源が市域に存在する場合には税制の活用による税源拡充,(3)小規模な自治体の場合には広域合併により財政力をつける,(4)開発者による土地や公共施設の提供を条例で義務づけるなどの開発者負担等の方式がとられた。また,都心部では人口が郊外化して住民税の低下が見られる半面で,法人関係税が国や府県財政に属する部分が大きいので,昼間人口や事業所が発生させる財政需要に対応した事業所税の導入が1975年に行われた。これは事務所・事業所の地方分散を促進するねらいから出発したものである。
低成長経済下に入って人口の大都市圏への集中がなくなり,さらにバブル経済の崩壊などで雇用不安が生じるなかでの大都市財政は,高度成長期とはまったく異なる課題を持つことになる。最大の課題は,人口構成の変化であり,義務教育施設や保育所・幼稚園などが余ってくる半面で高齢者に必要なデー・ケアなどの介護施設が不足することである。また,都市基盤整備においても,下水道の普及率は多くの都市でまだ不足しており,廃棄物行政の課題は山積している。財源面では,税収の低下によって自主財源と依存財源が共に収入源となるところから,税源の分権化や受益者負担の拡充などが主張されるとともに,経費面でも見直しが進められている。
執筆者:舟場 正富
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報