矢の一種、篦(の)(矢幹)の先に球形状の木または鹿(しか)の角を中空とし、前方に数個の孔(あな)をうがった鏑というものをつけた矢。これが飛翔(ひしょう)すると孔に風を受け鋭い音響を発する。その形が蕪(かぶら)に似ていることから蕪矢とも、また音を発することから鳴鏑(なりかぶら)、鳴矢(なりや)、鳴鏑矢(なりかぶらや)、響矢(なりや)、嚆矢(こうし)とも書くことがある。その作り方は矢束を通常よりやや長めとし、筈(はず)は觘(ぬた)筈、矢羽は四立(四枚羽)、鏑の先に走り羽と直角になるように雁股(かりまた)を割根(わりね)にすげる。笠懸(かさがけ)や犬追物(いぬおうもの)には、鏃(やじり)をつけない鏑の一種である蟇目(ひきめ)(引目)を用いた。嚆矢が開戦の合図を意味したように鏑矢は古く北方アジア騎馬民族が信号用として使用していたらしい。日本でも古墳からの発掘品や正倉院宝物にこれが残されており、源平の合戦描写にもしばしば使用する場面が描かれている。
[入江康平]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…《史記》匈奴伝に,匈奴が鳴鏑を用いることがみえるが,東北アジアでは早くから流行していた。高句麗の輯安舞踊塚には,狩猟に鏑矢を用いている壁画がある。日本にも古墳時代中期以降に朝鮮を経て伝わっていた。…
…その意味で矢合は開戦の口火を示す宣戦布告の表現であった。矢合にさいして,まず敵陣に向かって鏑矢(かぶらや)が射られた。これを矢合の鏑始めと称した。…
※「鏑矢」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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