( 1 )「箙」の字は「十巻本和名抄‐五」「色葉字類抄」などでは「やなぐひ」の訓が付けられている。「やなぐひ」は、平安時代には朝廷で儀仗用などに用いられていた。平安時代末頃から衛府の随身や武士の使用していたものを指して「えびら」と呼ぶようになったものと思われる。
( 2 )「今昔‐二八」の記述より矢と容器とを含めて「やなぐひ」、矢を入れる容器だけを「えびら」と区別していたものと思われる。しかし、後には混同されることもあったようで、易林本節用集では、「胡簶」「箙」ともに「えびら」と読まれている。
武具の一種で箭(や)を盛る調度。携帯用容器の種類としては,上代に用いられた靫(ゆぎ),胡籙(ころく)(胡禄),中世の胡籙(やなぐい),箙,空穂(うつぼ)などがある。箙は,〈やなぐい〉と同じように,飛鳥・奈良時代にもっぱら用いられた隋・唐伝来の〈ころく〉の形式を受け,武士が戦いに用いたものである。形が蚕簿(さんはく)/(えびら)ににているので,この名があるといわれる。古くは〈ころく〉とも,〈やなぐい〉ともよまれ,区別はされなかったようである(《三代実録》貞観16年(874)9月14日の条)。さらに《和名抄》では箙は〈やなぐい〉と訓じ〈えびら〉の訓はなく,《伊呂波字類抄》には〈やなぐい〉と〈えびら〉の訓を記してある。要するに箙は正倉院に現存する葛(つづら)胡籙のようなものが,地方武士の興隆にともなって生じた騎馬での射戦に適した簡便堅固なものに発展し,軍陣に用いられるようになった。一方,朝廷の儀式に衛府(えふ)の官人が帯びる儀仗(ぎじよう)の〈やなぐい〉を生じ,名称だけではなく形状においてもいちじるしく異なる2種のものに発展した。源平合戦以後になると箙は武士の用いるもの,胡籙は朝廷の儀式や神事に用いるものと区別されるようになった。しかし日記,物語類にはなお箙と記して胡籙の意に用い,また箭を盛ったものを胡籙といい,容器のみの場合に箙といったこともあるらしい。
箭を受ける箱を方立(ほうだて)といい,方立に前板・両脇板・背板があり,背板の両端から〈はたて(羽立)〉の蔓(つる)が高く立てられ,上端に高頭(たかかしら)が作られ,はたての間に山道の形に蔓を張り,下方に箭搦(やがらみ),高頭に箭束(やたばね),はたての右に受緒(うけお)の根緒(ねお),左に懸緒(かけお)などの緒所がつけられている。方立の内には鏃(やじり)の先を受ける箭配(やくばり)の櫛形(くしがた)板や筬竹(おさたけ)を張り渡し,方立の前板に角製の蜻蛉(とんぼ)形を飾り付けてあるのが普通である。箭は五五二十五,四五二十,四四十六隻数を重ね列にして四角形に,そのうち尖(とが)り箭2隻,鏑(かぶら)矢2隻を差す。箙は材質・形状・用途により,逆頰箙(さかづらえびら),革箙,葛箙,竹箙,柳箙,塗箙,指箙,筑紫箙,狩箙などに分けられる。逆頰箙は方立,蔓などを熊毛(くまげ)をさかさに上向きにして包む。また熊毛のかわりに猪毛(ししげ)を用いたものもあり,これを〈ししさかづら〉といい,古くは諸衛府の用いたものであったが,のちには一般武将がこれを用い式正箙(しきしようのえびら)と称した。葛箙,竹箙,柳箙,塗箙は方立の材質によって名づけられ,また筑紫箙は主として黒塗りで,方立の底がまるく,はたての蔓はクジラのひげでつくられ,八字形となり,普通の箙とはいちじるしく様式を異にし,筑紫において形成されたのでこの名があるといわれる。なお狩箙は軽便で狩猟用に用いるものをこのようにいったので,主として竹箙を用いた。
執筆者:尾崎 元春
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狩場や戦場で腰に負う矢入れ具の一種。形は
のように前板、脇板(わきいた)、背板よりなる方立(ほうだて)とよぶ箱に矢の根を固定する矢配板(やくばりいた)を置き、背板に鉄または籐(とう)製の端手(はたで)をつけ着帯用に緒をつけたものである。箙は靭(ゆぎ)から発展したものとされ、平安時代中期ごろから盛んに用いられた。なお、同時代の矢入れ具である胡籙(やなぐい)と同じものであったらしいことが当時の資料にみえ、また矢を盛った状態のものを胡籙、矢入れ具そのものを箙と称した場合もあったが、鎌倉時代以後、箙は武人用、胡籙は公家(くげ)の儀式用と区別するようになった。箙の種類には熊(くま)や、猪(いのしし)の皮を張った逆頬箙(さかづらえびら)を正式とし、そのほかに柳箙、竹箙、角(つの)箙、塗箙、葛(くず)箙、革箙などがある。[入江康平]
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