律における刑罰で人身または物品を官に没収すること。(1)人身の没官。謀反・大逆の罪の縁坐として科される刑罰で,その身を官に没収して賤民とする(官戸)。前記の罪を犯した者の父子および家人(けにん)が没官の対象となるが,日本律におけるその対象の範囲は,唐律にくらべて大幅に縮小されている。人身の没官は,刑罰体系上,絞と遠流の中間に位置する。(2)物品の没官。さらに次の3種があるが,いずれも付加刑である。(a)彼此俱罪の贓。贓物授受の両当事者が処罰される場合,その贓は官に没収する。例えば官吏が財物を受けて法をまげた場合の財物等。(b)犯禁物。私人が所持することを禁じられている物品を所持した場合,その所持者が処罰されると同時に,その物品を官に没収する。例えば禁兵器や禁書等。(c)謀反・大逆罪の犯人所有の全財産。この場合は,犯人を斬に処すると同時に,その所有する資財・田宅すべてを官に没収する。
→没官領
執筆者:小林 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
人や物品・財産を官に没収すること。律の刑罰の一つで、普通付加刑といわれるが、人については主刑となる。人の場合、謀反(むへん)・大逆を犯した者の父子と家人は、年80以上、篤疾(とくしつ)者を除き没官されて官戸・官奴婢(ぬひ)となる。物品・財産の没官には、受財枉法(おうほう)などの場合の彼比倶罪(ひしぐざい)の贓(ぞう)、私有を禁止された兵器・禁書など犯禁物、謀反・大逆の犯罪者の財産の3種がある。母法の唐律では謀反・大逆の場合、父と年16以上の子が絞(こう)、15以下の子、母、女、妻妾(さいしょう)、子の妻妾、祖孫、兄弟姉妹が没官と規定し、日本に比べ刑が重く、没官の範囲もはるかに広い。『魏志倭人伝』(ぎしわじんでん)に「其犯法、軽者没其妻子……」とみえ、『古事記』『日本書紀』に類似記事があり、伝統的刑罰の一種とみられる。740年(天平12)の藤原広嗣(ひろつぐ)の事件に際する「没官五人」などの例もある。また、類語に没官地、没官領などがあり、1183年(寿永2)後白河(ごしらかわ)院による平家追討時の平家没官領などの事例がある。
[菊池克美]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…平安時代後期以降,国家反逆罪に対し,付加刑として国家すなわち官に没収された所領をいう。《古事記》や《日本書紀》には,すでに大和王権が地方豪族の土地・財産を没収する慣習法がみられ,奈良時代以降は律によって,国家反逆罪中最も重い天皇に危害を加える謀反(むへん)と宮城・陵墓を破壊する大逆(だいぎやく)とに,付加刑として父子田宅資財を没官する規定が設けられ,実施されてもいたが,それらは必ずしも土地が中心でなく,土地であっても〈領〉とよばれることはなかったので,通常没官領とはいわない。しかし,平安時代後期以降,社会が世襲される所領によって骨格づけられ,所領没収が重刑事犯罪一般にも適用される傾向が広がると,朝廷は上記の国家反逆罪に対する没官を,所領を主対象として積極的に展開するようになり,そのさい没官される所領を没官領とよぶようになった。…
※「没官」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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