電力事業に関するあらゆるルールを定めた法律で、1964年に施行された。大手電力会社に対し地域独占を認める代わりに、安定供給を義務付けている。電気料金は燃料費や人件費などの原価を積み上げる総括原価方式に基づいて国が認可すると定めている。規制緩和の流れで同法は順次改正され、大口需要家向けから段階的に自由化されてきた。
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電気事業に対する法的規則の態様は,日本における電気事業の発展とともに変遷してきた。
1886年の電気事業の創業当初は,電気工作物に対する保安取締りが主たる行政であり,96年の電気事業取締規則は,まさにそのような性格のものであった。日露戦争を契機に経済が重工業化すると,電力需要も飛躍的に増大し,電気事業の保護助長,公益規制の必要が生じた。政府はこの必要に応じて数次にわたり電気事業取締規則を改正したが,1911年に,一般の需要に応じて電気を供給する事業と,一般運送の用に供する鉄道・軌道の動力に電気を使用する事業に限って規制の対象とし,公益規制の観点から事業の許可制をとる旧電気事業法が制定された。同法では電気料金は届出とされ,事業者の供給義務は施行規則で定められるにとどまった。その後,31年に同法が改正され,電気事業に卸電気事業が加えられ,料金は認可制となり,供給義務,供給地点における電圧・周波数の保持義務が法定された。
満州事変から日華事変へと経済が戦時体制化するにともなって,電力の国家管理の要請が強まり,1938年に,電力管理法,日本発送電株式会社法,電力管理に伴う社債処理に関する法律,電気事業法の一部改正が成立した結果,政府が発電・送電を管理下におき,その大部分を日本発送電株式会社に行わせ,かつ政府が同社を監督し,設備計画,電気料金その他電力供給に関する重要事項の決定権を持つ,電力の国家管理体制が実現した。第2次大戦の敗戦で形式的には戦時体制下の法律命令がすべて変更を余儀なくされたが,電気事業に関しては,実質的には51年の公益事業令まで戦前の体制が維持された。
公益事業令は現在の電気事業法の基礎となったものだが,1952年にポツダム政令である電気事業再編成令(1950公布)と公益事業令とが平和条約発効後も法律として効力を持つことを定める法案が提出されたが,審議未了のうちに法案を提出した公益事業委員会が廃止され,電力行政が通産省の所掌となるという組織変更があった。その後,結果的には,通産省は63年まで新たな電気事業法を制定できなかった。その間,1952年10月24日の両法令の失効から同年12月27日の〈電気及びガスに関する臨時措置に関する法律〉が可決施行されるまでは,電気事業に関する法の空白が生じ,同法によってようやくすでに失効した旧公益事業令と旧電気事業再編成令の効力が復活するという混乱もあった。62年までさまざまな形で新法の検討がなされたが,水利権問題や,日本発送電等に対して,出資統合された地方公共団体や自家発電の設備,事業の返還問題等について,関係者の調整がつかず法律の制定は実現しなかった。
しかしこの間日本経済の高度成長に合わせて電気事業の成長は著しく,時代に即応した電気事業法の制定が必至となったため,1962年に新たに電気事業審議会が設置され,電気事業の企業形態,電源開発の円滑な推進,電力料金制度の合理化,合理的な電気施設の保安体制の確立,電気事業規制等に関する答申をとりまとめて通産大臣に提出し,それを受けて64年に至ってようやく現行の電気事業法が制定されたのである。現行法は電気事業の適正かつ合理的な運営を期すため各種の規制を定めているが,電気事業運営における広域経済性の利益を追求し,電力コスト低減と企業間格差の是正を図るための手段として,広域運営に関する規定を置いたこと,電気の使用者の利益を保護し,サービス水準の向上を図るための規定を置いたこと,電気工作物に関する保安規定,とりわけ自主保安規定を整備したこと,電気事業に対する国家規制を緩和し,企業の自主性を尊重することによって企業経営の能率化を期待するとともに,公益的立場から必要とされる監督規定を整備し,規制の合理化を図ったこと等の特徴を持つ。
執筆者:来生 新
電気事業法は95年に大幅に改正され,(1)電力供給主体の多様化による供給面での競争原理の導入と電源の分散立地促進による電力供給コスト低減,(2)料金制度見直しによる電力各社の経営効率化の促進,などが眼目とされた。とくに(1)に関して,卸電気事業についての参入規制を廃し,一般電気事業者の電源調達について入札制度が導入され,IPP(独立系発電事業者)が電力会社に長期間売電するいわゆる〈卸電力〉が制度化された。
執筆者:編集部
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電気の利用者の利益保護と電気事業の健全な発展という目的のため、1964年(昭和39)に制定されたわが国の電気事業規制の根本となる法律。
電気事業は従来から規模の経済性(企業規模が大きいほど収益が上がりやすいこと)が働く自然独占分野と考えられ、その料金が「原価主義」「公正報酬」「需要家間の公平」を三大原則として経済産業大臣の認可を受ける公益事業と位置づけられている。わが国では電気事業法のもと、おのおのが発・送・配電事業を一体的に運営する9電力(沖縄電力を含めば10電力)会社体制が確立している。
しかし、世界的な電気事業規制緩和の潮流のなかでわが国においても、1995年(平成7)に電気事業法が改正され、発電市場への競争導入(独立系発電事業者の導入)、特定電気事業の創設が実施された。また、電力会社の効率経営を促進するための新たな電気料金査定制度(ヤードスティック査定)が導入された。
その後、電気事業へのいっそうの競争導入のため、1997年には電気事業審議会の答申で、新設火力発電の全面的な入札制度導入が決定し、さらに99年には電気事業法が再改正され、大口需要家(2万ボルト以上で使用最大電力が2000キロワット以上)を対象とした小売の部分自由化が、2000年3月から実施された。これは特定規模電気事業とよばれ、この小売の部分自由化によって、自由化の対象となるのは、電力量ベースで全需要の約30%で、同部分では、原則として参入自由、料金規制もなくなった。また、実際に電気事業へ新規参入の際の重要な要件となる託送(料金)制度の詳細に関して検討が進められた。
[小山 堅]
その後、2005年から特定規模電気事業において需要家の対象が、6キロボルト以上で使用最大電力が50キロワット以上というように緩和された。一方、電力の小売り全面自由化については、2007年7月の電気事業分科会で「現時点では実施は望ましくない」との結論が示された。
[編集部]
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(2014-6-16)
…従来,危険防止を目的とした保安・監督行政であったものが,電気事業の公共性を認めたうえで,公益事業としての発展を助長する方向に転じた。その象徴が1911年の(旧)電気事業法の制定である。 水力発電の電源立地は大きな河川に沿って山間部に深く入り込み,電力の消費地である都市から遠隔化した。…
※「電気事業法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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