電解研磨(読み)デンカイケンマ(英語表記)electrolytic polishing

デジタル大辞泉 「電解研磨」の意味・読み・例文・類語

でんかい‐けんま【電解研磨/電解研摩】

電気分解を利用する研摩法。電解液中の陽極アノード)に工作する金属陰極カソード)に不溶性の金属を設置し、直流電流を流して表面溶解することにより平滑な面を得る。

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改訂新版 世界大百科事典 「電解研磨」の意味・わかりやすい解説

電解研磨 (でんかいけんま)
electrolytic polishing

金属表面の平滑化光沢化を目的とする研磨技術の一種。特殊な組成の電解浴中に被加工物を浸漬して陽極とし,同じ溶液中におかれた陰極との間に電流を流すとき起こる陽極の溶解反応を利用するもので,化学研磨における酸化剤の作用を電解でおきかえたものといえる。化学研磨法に比べて特別な装置が必要となるが,処理時間の短縮と適用範囲が広いという利点がある。硬い材料でも軟らかい材料でもともに容易に適用できることや,加工者の熟練度をあまり必要としないことなどが機械研磨より優れている点である。また表面に加工変質層を作らないで平滑化を行うことができる点で研究用試料の調整にとっても重要な技術である。電解浴は電解条件下で目的金属の酸化物を溶解する能力と,陽極表面に粘性の高い液状の薄膜を作る能力とをもつことが要求される。この薄膜が形成されると材料の凸部が優先的に溶解して平滑化する溶解が可能になる。

 電解時に研磨現象が起こって表面が光沢化するということはフランスのジャケP.A.Jaqueが1931年に発見したもので,無水酢酸と過塩素酸を混合させたジャケ浴が鉄鋼材料やアルミニウム材料に対して使われた。この浴は温度が上がると爆発する危険のあることがわかり,現在では研究用試料に対してしか使用しない。通常,工業的にはリン酸主成分とする電解浴が用いられる。リン酸浴はほとんどすべての金属材料に対して使用可能であるが,目的の材料に応じて硫酸クロム酸シュウ酸などを組み合わせて用いる。ステンレス鋼の最終仕上げ,アルミニウム合金の陽極酸化の前処理などがおもな工業的用途である。
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化学辞典 第2版 「電解研磨」の解説

電解研磨
デンカイケンマ
electropolishing, electrolytic polishing

金属あるいは半導体などを濃厚なリン酸水溶液などのなかで比較的大電流密度でアノード溶解させ,表面を平滑かつ光沢のある面に仕上げる無ひずみ研磨方法.電解研磨現象は,ほぼ1 μm 以上の凹凸を除去する平滑化(smoothing,leveling)と,光の波長の程度すなわち0.01 μm くらいの凹凸を除く光沢化(brightening)の二つの現象に分けて考えることができる.電解研磨の際の電流-電位(あるいは浴電圧)曲線はJacquet曲線ともよばれ,エッチングの起こる活性溶解領域,研磨の起こる限界電流領域,酸素発生を伴う研磨領域に分けられるが,この限界電流は溶解した金属イオンまたはPO43-のようなアクセプター-アニオンの拡散で説明される.実際,研磨中に陽極近傍には0.01 cm くらいの粘性に富む液層が観察され,その厚さは表面の凸部で薄く,凹部で厚くなっているはずなので,この層中の拡散で平滑化現象は説明できる.光沢化については,表面に生成する薄い固体皮膜中のイオンの拡散にもとづく現象と考えられている.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「電解研磨」の意味・わかりやすい解説

電解研磨
でんかいけんま
electrolytic polishing

電気分解で金属陽極が溶解することを応用した研磨法。研磨すべき金属を硫酸,リン酸またはアルカリ液中において,高い電流密度 (50A/ dm2 以上) で陽極溶解すると,微視的凸部が優先的に溶解し,ある場合には表面上のよごれや酸化物を溶かし新たにごく薄い緻密な化学的に強固な皮膜を形成し,平滑化と耐食性を向上させる。直流だけでなく交流でもできる。金属製品の美化,耐食性増加,機械部品の仕上げなどに広く応用される。

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百科事典マイペディア 「電解研磨」の意味・わかりやすい解説

電解研磨【でんかいけんま】

金属表面を平滑で光沢のある面に仕上げる加工法。金属工作物を電解液中につけて陽極とし,溶液中の陰極との間に電流を流したときに起こる陽極の溶解反応を利用して,表面を平滑化させる。電解液はリン酸系のものが主。加工面に組織の変化が起きず,複雑な形状のものや線,箔(はく)などの研磨も可能である。
→関連項目研磨

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