街路,広場,空地や,縁日,祭礼などの人出の多いところで,簡単に移動できる台だけの店舗などで,さまざまな商売をする者の総称。露天商が夜になっても出店していたり,夜だけ店をだすことを夜店(よみせ)という。露店は江戸時代からさかんで,江戸時代後期には常設の露店が各所にあった。浅草に近い柳原土手の古着,古道具を中心とした露店は落語の素材になっている。縁日,祭礼などの露天商人を管理するのはおおかたはその土地のてきやである。口上をいって商売をする者,たとえばバナナのたたき売り,薬品売り,易者,詰将棋などはてきやの組織に入って出店することができた。大正のころは演歌師もそうであった。口上をいわない者,たとえば古本屋,小間物屋,おでん屋などは場所代をてきやに支払うだけで商売ができた。口上をいう露天商人のなかにはガセネタ,すなわち粗悪商品を専門に扱う者もいた。火災にあった工場の万年筆を退職金代りにもらったといって,泥だらけの万年筆を売るのはてきやの符丁でドロネンマという。布地を売るのに手先でごまかして同じところを計って売るのがタグリである。ナキバイというのは,哀れっぽいかっこうの男が工場あるいは商社が倒産して退職金代りにこれをもらったといって売ることで,仲間が通行人のふりをして品物をほめる。この仲間をサクラというが,サクラが5人がかりぐらいでひと芝居して西洋かみそりなどを売った。詰将棋,五目並べもてきやのバイニンすなわち商売人の仕事であった。何の商品も持たず,口上がうまくいえない者に代わってタクヅケすなわち口上をいって,売れると何%かの口上代をもらうてきやのことをマアチャン(馬賊という意味)といった。また大道賭博はすべててきやが管理していて博徒とは関係がない。
→物売 →香具師(やし)
執筆者:加太 こうじ
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
露天の路上に品物を並べて商う露店、辻店の小商人。大道商人。18世紀からみられる。上方(かみがた)では干店(ほしみせ)、江戸では天道干(てんとうぼし)といい、小間物、飲食物、古道具、古本などをおもな商品とした。19世紀になると、大坂、江戸に始まった夜見店(よみせ)、または縁日などを生業(なりわい)の場所とした。19世紀末には激しい経済変動のなかで倒産した商人や半失業者たちが大挙して露天商の仲間入りをしてその数を増やしたため、半素人(しろうと)の彼らは旧勢力や香具師(やし)(的(てき)屋)らによって統制された。このため、やむなく独自の組織をつくるグループも現れた。
いずれにしろ、鑑札を必要とする彼ら露天商の扱う品はほぼ決まっており、半素人は、小間物、玩具(がんぐ)、飴(あめ)、菓子や葛餅(くずもち)、すし、おでん、甘酒、氷水などを商い、また専門職(プロ)である香具師らは、歯みがき粉、せっけん、陶磁器などを独特の口上によって商った。第二次世界大戦後、業態はかなり変わってきているが、商品に二級品や不合格品の多い点は相変わらずである。
[遠藤元男]
『添田知道著『香具師の生活』(1964・雄山閣出版)』
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