顎関節症(読み)がくかんせつしょう(英語表記)Temporomandibular disorder

六訂版 家庭医学大全科「顎関節症」の解説

顎関節症
がくかんせつしょう
Temporomandibular disorder
(口・あごの病気)

どんな病気か

 咀嚼(そしゃく)(物を噛むこと)したり、を開閉する際に、咀嚼筋(あごを動かす筋肉)に痛みや違和感を感じる咀嚼筋群の機能障害と、顎関節(がくかんせつ)の痛みや雑音を伴う可動制限を総称して関節症と呼びます。これらは、単独で症状を現す場もありますが、多くは両者が混在した病状を呈します。

原因は何か

 顎関節症は多因子的疾患で、精神的ストレス、疲労を蓄積させる生活習慣、噛み合わせの異常などがあげられますが、直接的には、歯ぎしりや食いしばりによる影響が最も大きいと考えられます。つまり、歯ぎしりや食いしばりの習癖があると、咀嚼筋に疲労が蓄積されると同時に、顎関節にも過剰な負担がかかり、結果的に咀嚼筋や顎関節の痛みを伴う顎機能障害(口が開かない、硬いものが噛めないなど)に至ると考えられます。

 発症頻度は、歯科受診患者総数の約10%とされ、20~40代の女性に多いといわれていますが、最近では若年者の患者が増加しています。

症状の現れ方

 顎運動時(あごを動かした時)の筋痛、顎関節(の前方部)の痛みや雑音などが、主な臨床症状です。多くの場合、これらの症状は複合します。

検査と診断

 詳細な病歴聴取、臨床所見ならびに単純X線検査によって診断します。症状や治療経過に応じて、MRI、CT、顎関節鏡視検査などの特殊な画像検査を行います。

 とくに、治療経過が長引く場合には、他の疾患(顎関節症の症状の影に悪性腫瘍が潜んでいることもあります)との鑑別診断を再検討するべきです。

治療の方法

 顎関節症患者の80~90%は非外科的治療(咀嚼筋のマッサージやストレッチ、マウスピースによる治療、薬物療法など)により症状は改善します。噛み合わせが悪いからといって、歯を削ったり、冠を被せて調整するなどの非可逆的治療は原則として避けるべきです。

 非外科的治療に奏効しない顎関節の痛みには、関節内の炎症性物質を洗い流す顎関節洗浄療法が適用されます。これにも奏効しない場合(全体の1~2%)には、変形した骨や関節円板を整形する顎関節開放形成術の適用を検討します。

病気に気づいたらどうする

 思い当たる症状がある場合には、歯科医または口腔外科専門医にご相談ください。

濱田 良樹

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百科事典マイペディア「顎関節症」の解説

顎関節症【がくかんせつしょう】

(あご)の関節を動かす筋肉や,関節の機能異常の病気。口を大きく開けたり,ものをかんだりしたときに,動きがぎこちない,痛みをともなう,口を開閉すると関節が鳴るなどの症状がある。10代〜20代の若い女性に多く,X線検査をしても骨には異常がない。ほぼ同じ症状が50代〜60代の人に起こることもあるが,これは関節の老化による病気で変形性顎関節症とよばれ,X線検査で骨に異常がみられる。 原因は,抜けた歯をそのままにして片側だけでかむ,合わない入歯や歯の充填(じゅうてん)物があるといったかみ合わせの異常や,関節や筋肉への負担,精神的なストレスによる筋肉の緊張などが考えられている。最近では,カップ麺など軟らかいインスタント食品が若者に好まれ,硬いものをよくかんで食べる習慣が少なくなり,顎の発達が悪くなったこともあって,この病気が増えている。 治療は,原因が明らかであればそれを取り除き,顎関節や筋肉の痛みを取るため抗炎症剤を投与する。関節の間にあってクッションの働きをしている関節円盤に異常があれば,手術を行うこともある。1994年4月から内視鏡による手術も健康保険の適用となった。この方法は,皮膚から直径2mmの関節鏡を差し込んで,テレビモニターを見ながら変形した関節円盤を元に戻したり,人工のものに取り替えるもので,顔に傷痕が残らず,後遺症もほとんどない。→不正咬合

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日本大百科全書(ニッポニカ)「顎関節症」の解説

顎関節症
がくかんせつしょう

口の開閉に伴い顎関節やその周囲に痛みを感じる疾患。顎関節痛(あごが痛む)、開口障害(口が開かない)、顎関節雑音(あごを動かすと音が生じる)などの代表的な症状がある。日本顎関節学会ではその病態を、そしゃく筋障害(Ⅰ型)、関節包・靭帯(じんたい)障害(Ⅱ型)、関節円板障害(Ⅲ型)、変形性関節症(Ⅳ型)、上記に該当しないもの(Ⅴ型)、の五つに分類している。原因はかみ合わせの悪さとされてきたが、その関連性は薄いと考えられている。かわって歯を食いしばる、歯ぎしりをする、かむ動作の際に歯をカチカチ鳴らすなどのブラキシズムbruxismが原因の一つと考えられるようになっており、ストレスや精神的緊張などの心理的要因も指摘されている。ほかに、左右の一方に偏る日常的なそしゃく習慣、頬(ほお)づえをつくなど顎関節に負担のかかる日常習慣、さらにやわらかい食物の摂取が増えてかむ力が衰える傾向にある食生活の変化なども原因とされる。治療法には開口訓練や治療用マウスピースを装着するスプリント療法、鎮痛薬や筋弛緩(しかん)作用のある薬物による化学療法、関節円盤を正常な位置にもどすマニピュレーションなどがある。

[編集部]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「顎関節症」の解説

顎関節症
がくかんせつしょう
arthrosis of the temporomandibular joint; temporomandibular joint dysfunction

顎関節部の疼痛,雑音,異常顎運動 (ことに開口が制限される) などを症状とする非炎症性の慢性疾患。一側性のことが多い。顎関節を動かす筋肉群が興奮しやすくなっているためといわれ,その原因として外傷,過度の開口,不正咬合,不適合の充填補綴物,精神的ストレスなどがあげられる。 20歳代の女性に多い。治療には,まず原因を取除き (咬合処置など) ,物理療法 (赤外線超短波など) ,薬物療法,顎運動練習などを行うが,手術を必要とする場合もある。

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デジタル大辞泉「顎関節症」の解説

がくかんせつ‐しょう〔ガククワンセツシヤウ〕【顎関節症】

咀嚼筋顎関節の障害によって、顎の関節や周囲の組織に生じるさまざまな疾患の総称。口を開閉するときに音がする、痛みがある、口を大きく開けられないなどの症状が現れる。頭痛・めまい・肩こり・耳の痛みなどを伴うこともある。

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世界大百科事典内の顎関節症の言及

【歯痛】より


[その他の痛み]
 精神的ストレスや歯のかみ合せの異常によって顎関節付近に痛みを生じることがある。ときには痛みだけでなく,口が開きにくい,口の開閉運動のときに顎関節部に雑音がある等の症状の合併することもあり,顎関節症と呼ばれている。ストレスの解消,かみ合せの改善によって症状がなくなるが,歯髄疾患や歯周疾患によるものもあり,歯の治療を必要とすることもある。…

※「顎関節症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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