顎関節症は多因子的疾患で、精神的ストレス、疲労を蓄積させる生活習慣、噛み合わせの異常などがあげられますが、直接的には、歯ぎしりや食いしばりによる影響が最も大きいと考えられます。つまり、歯ぎしりや食いしばりの習癖があると、咀嚼筋に疲労が蓄積されると同時に、顎関節にも過剰な負担がかかり、結果的に咀嚼筋や顎関節の痛みを伴う顎機能障害(口が開かない、硬いものが噛めないなど)に至ると考えられます。
発症頻度は、歯科受診患者総数の約10%とされ、20~40代の女性に多いといわれていますが、最近では若年者の患者が増加しています。
顎運動時(あごを動かした時)の筋痛、顎関節(耳の前方部)の痛みや雑音などが、主な臨床症状です。多くの場合、これらの症状は複合します。
詳細な病歴聴取、臨床所見ならびに単純X線検査によって診断します。症状や治療経過に応じて、MRI、CT、顎関節鏡視検査などの特殊な画像検査を行います。
とくに、治療経過が長引く場合には、他の疾患(顎関節症の症状の影に悪性腫瘍が潜んでいることもあります)との鑑別診断を再検討するべきです。
顎関節症患者の80~90%は非外科的治療(咀嚼筋のマッサージやストレッチ、マウスピースによる治療、薬物療法など)により症状は改善します。噛み合わせが悪いからといって、歯を削ったり、冠を被せて調整するなどの非可逆的治療は原則として避けるべきです。
非外科的治療に奏効しない顎関節の痛みには、関節内の炎症性物質を洗い流す顎関節洗浄療法が適用されます。これにも奏効しない場合(全体の1~2%)には、変形した骨や関節円板を整形する顎関節開放形成術の適用を検討します。
思い当たる症状がある場合には、歯科医または口腔外科専門医にご相談ください。
濱田 良樹
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
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口の開閉に伴い顎関節やその周囲に痛みを感じる疾患。顎関節痛(あごが痛む)、開口障害(口が開かない)、顎関節雑音(あごを動かすと音が生じる)などの代表的な症状がある。日本顎関節学会ではその病態を、そしゃく筋障害(Ⅰ型)、関節包・靭帯(じんたい)障害(Ⅱ型)、関節円板障害(Ⅲ型)、変形性関節症(Ⅳ型)、上記に該当しないもの(Ⅴ型)、の五つに分類している。原因はかみ合わせの悪さとされてきたが、その関連性は薄いと考えられている。かわって歯を食いしばる、歯ぎしりをする、かむ動作の際に歯をカチカチ鳴らすなどのブラキシズムbruxismが原因の一つと考えられるようになっており、ストレスや精神的緊張などの心理的要因も指摘されている。ほかに、左右の一方に偏る日常的なそしゃく習慣、頬(ほお)づえをつくなど顎関節に負担のかかる日常習慣、さらにやわらかい食物の摂取が増えてかむ力が衰える傾向にある食生活の変化なども原因とされる。治療法には開口訓練や治療用マウスピースを装着するスプリント療法、鎮痛薬や筋弛緩(しかん)作用のある薬物による化学療法、関節円盤を正常な位置にもどすマニピュレーションなどがある。
[編集部]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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[その他の痛み]
精神的ストレスや歯のかみ合せの異常によって顎関節付近に痛みを生じることがある。ときには痛みだけでなく,口が開きにくい,口の開閉運動のときに顎関節部に雑音がある等の症状の合併することもあり,顎関節症と呼ばれている。ストレスの解消,かみ合せの改善によって症状がなくなるが,歯髄疾患や歯周疾患によるものもあり,歯の治療を必要とすることもある。…
※「顎関節症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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