風景式庭園(読み)ふうけいしきていえん(英語表記)landscape garden

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「風景式庭園」の意味・わかりやすい解説

風景式庭園
ふうけいしきていえん
landscape garden

18世紀のイギリスで発展した庭園の形式。自然式庭園とも呼ばれる。17世紀フランスに代表される整形庭園の幾何学的な構成に対する反動として生まれ,非対称や曲線を積極的に用い,理想の風景をつくり出そうとした。またたく間にヨーロッパ中に広まり,多くの既存の庭園が改造された。文学や絵画から強い影響を受けている点が特徴的であり,初期にはジョーゼフ・アディソンやアレグザンダー・ポープなどの論説に影響を受け,また田園の中に廃虚の点在するクロード・ロランやニコラ・プーサンの描く風景も,風景式庭園の世界を先取りするものであった。ジョージロンドンとヘンリー・ワイズはこの傾向の始祖というべき存在で,チャールズ・ブリッジマンはテンプル家の庭園(→ストウの庭園)でさらに自然に向かっての歩を進めた。さらにルイシャムの庭園をつくったウィリアム・ケントは自然を忠実に写す方向へ進み,ランスロット・ブラウンは極端な単純化を行なってパルテール彫像などを一切排除しようとし,水の扱いに卓越した技量を示した。初期には古代風の建物や人工の廃虚が点景として用いられたが,ゴシック復興の機運オリエンタリズムの進展などに伴い,ゴシック様式の小建物や東洋風のパゴダ,イスラム風の建物などのフォリーが設けられた。なかでも中国庭園が紹介されると,中国風に仮山を築き,中に洞を設けてそりの強い屋根の亭を載せたものも好んでつくられた。後期の造園家ハンフリー・レプトンは,排除されていた建物周辺の花壇などを復活,館の周辺は実用的な色彩を深め,過剰なフォリーを庭園から排除,新境地を開いた。こうした方向とウィリアム・チェンバーズのようにさまざまなフォリーのおもしろ味を追うものの間に激しい論争もあったが,19世紀のロマンチシズムに向けての傾斜が強まっていく。この時代にはアマチュアの造園活動も盛んで,3代カーライル伯によるヨーク近郊のハワード館や,ホーア家のヘンリー2世の造営になるステアトン近郊のスタウアヘッドなどがつくられた。最も熱心に受け入れたのはフランスで,ベルサイユ宮庭園内のプチ・トリアノンのアモーや,ジラルダン侯の営んだエルムノンビィルの庭などが代表的である。

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百科事典マイペディア 「風景式庭園」の意味・わかりやすい解説

風景式庭園【ふうけいしきていえん】

自然の風景を生かし,あるいは模した庭園で,狭い区域の中で,自然の雄大さ,釣合,動きを表現。伝統的日本庭園がこれに属する。古来整形式庭園が作られていた西欧では,18世紀の自然賛美の思潮の興隆とともに英国に発生,ドイツ,フランスにも波及して18世紀末―19世紀に流行。のち建物の付近だけを整形式とする折衷式庭園も出現した。

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世界大百科事典(旧版)内の風景式庭園の言及

【庭園】より

…ル・ノートルの関与した作品は,パリ周辺にたくさん残っており,前2者のほかに,シャンティイ,ソー,サン・クルーなどがおもなものである。
[イギリス風景式庭園の流行]
 フランス式庭園もたちまちヨーロッパ各国の模倣するところとなったが,18世紀に入ると,イギリスにこれとまったく対照的な新しい庭園思潮があらわれてヨーロッパ全土に流行し,既存の名園までもがこれに造りかえるにいたっている。この新しい庭はふつう〈風景式庭園〉と総称されるが,イタリアとフランスの庭がそれぞれの地形的特性をよく生かしたものであったように,それはイギリスのゆるやかな起伏をもつ丘陵の牧歌的な風景をその基盤においたものであった。…

【ピクチュアレスク】より

…ついで造園家プライスUvedale Price(1747‐1829)は,E.バークが1757年に提示した〈崇高the sublime〉と〈美the beautiful〉の二つの美的範疇には含まれない,複雑さ,多様さ,不規則性,荒削りさ,好奇心の喚起などの性質を含むピクチュアレスクの観念を定義した(《ピクチュアレスク試論》1794‐98)。プライスの影響下にJ.ナッシュが建築において,またレプトンHumphrey Repton(1752‐1818)が風景式庭園においてピクチュアレスクを定義すべく試みた。さらに芸術愛好家ナイトRichard Payne Knight(1750‐1824)は,《風景画》(1794)や《趣味の原理の分析的研究》(1805)で,ピクチュアレスクについて論じている。…

※「風景式庭園」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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