器具の収納と展示双方の目的を兼ねる装飾用の戸棚。ヨーロッパでは中世後期に領主たちの住居形式マナハウスmanor houseができあがり、そのホールに置く家具としてつくられた。当初は開放した棚の形式であったが、ルネサンス時代に入りイギリスでは、収納用のカップボードcupboardと展示用のコートカップボードcourt cupboardとに分かれた。フランスでは、上段は棚、下段に扉のつくビュッフェbuffet(フランス語)の形式が生まれた。17世紀から18世紀の初頭にかけて中国から高級陶器が輸入されるようになると、上段はガラス戸になり、18世紀以降は本棚もこの形式に倣った。現在サイドボードとよばれる戸棚はこの流れに属する。飾り棚は壁に作り付けにしたものや、最近の住宅で使われる間仕切り兼用の棚を意味することもある。日本の作り付け棚の古い例は鎌倉時代の絵巻『春日権現霊験記(かすがごんげんれいげんき)』にみられ、経巻などを収納していた。武家調度の厨子棚(ずしだな)や黒棚、桂離宮(かつらりきゅう)の桂棚などは飾り棚に相当するものである。
[小原二郎]
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