広義には,台所など水を使う場所をいうが,いくつかの意味がある。
(1)茶室に付属する控え室で,茶事の用意を整える亭主側の準備のための場所と施設。室町時代には茶の湯棚が用いられており,そこに必要な道具があらかじめすべて配列されていたから,特に支度をするための場所や設備は必要とされなかった。《草人木》に〈古風にハ仕掛(しかけ)棚とて数寄屋の勝手にをし入をして,それに其日入道具組合置也〉とあり,茶室の勝手の押入れに仕掛棚というものを設けて,当日必要な道具を置くということが行われていたことが記されている。この仕方はやがてすたれたとも記されており,仕掛棚の構成も伝わらないが,勝手からいちいち道具を運び付けて点茶をする運びの茶の形式が行われるようになり,茶室の外に設ける勝手の施設が重要になってきた事情を示している。初期の遺構がないので水屋の発達過程はよくわからないが,《茶道筌蹄》に〈水遣むかしはなし,縁側などにて仕舞し也,不審庵は水遣の始りなり〉とあるように,縁先に流しを設け,器物を並べる棚を置いていたようである。しかし利休屋敷では,釣棚で,棚板には框(かまち)の付いた,現在の水屋棚に近い構成を示していた。江戸時代初期に勝手・水屋の機能が整えられ,一定の形式をもつようになったと考えられる。勝手・水屋のあり方は茶室の構成によってさまざまに工夫されるが,流し,水屋棚のほかに,物入,炭入,丸炉,大炉,長炉などを備えるのを通型とする。水屋棚は間口3尺から4尺5寸,奥行きは2尺ほどを標準とし,通し棚と二重の釣棚をしつらえる。上段の通し棚は杉板の一枚張りで前後に框を付け,下段は寒竹を挟んで杉板を張った簀の子(すのこ)棚とし,流しの三方の壁に腰板を張り,茶筅,茶巾などを掛ける竹釘を打つ。水屋棚の構成は水屋飾と結び付いて定式化されており,流儀の約束による多少の相違はあるが,大きな変化はない。
(2)食器や食品などを入れる戸棚(膳棚ともいう)。間口は3尺くらいから大きいものでは1間,1間半もあり,引違い戸,抽斗(ひきだし),慳貪(けんどん)などがついている。
(3)社寺の前にあって参詣人が手や口をすすぎ清めるための手水(ちようず)鉢を備えた吹放ちの建物。水屋形,手水屋形,水盤舎ともいう。なお飲料水や氷水を売り歩く水売も水屋といった。
執筆者:日向 進+小泉 和子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
茶事の準備を整える場所で、茶室には欠くことのできない施設である。勝手、勝手水屋とも称され、台所または料理所が付属することもある。『茶道筌蹄(ちゃどうせんてい)』(1816)に「水遣むかしはなし、縁側などにて仕舞し也(なり)」とみえるが、山上宗二(やまのうえそうじ)の伝えた紹鴎(じょうおう)四畳半の図には、四畳半の端に竹の簀子縁(すのこえん)があり、その一隅に「水ツカウハシリ」と記入されていた。このように「ハシリ」(流し)だけで、器物は適宜棚を置いて並べるというのが初期の水屋の姿であったと考えられる。
江戸時代初期の曼殊(まんしゅ)院茶室(八窓軒(はっそうけん))の水屋は、流しのほかに押入れがあるだけで初期の簡素な形式を伝えている。やがて流しの上に棚を造り付け水屋棚が形成される。水屋棚を備えた勝手の古い実例は後水尾(ごみずのお)院の好みと伝える燈心(とうしん)亭のそれで、間口(まぐち)1間(けん)の仮置棚と竹の簀子縁が付加されている。利休聚楽(じゅらく)屋敷の茶室でも造り付けの水屋棚が設けられていた。利休流の水屋の古い実例としては1742年(寛保2)造立の蓑庵(さあん)をあげることができる。
水屋棚の基本型は、間口3尺(約91センチメートル)~4尺5寸、奥行2尺程度、下は簀子流しで、その周りは板張りとし茶巾(ちゃきん)、茶筅(ちゃせん)などをかける竹釘(くぎ)を打つ。流しの上方に二重棚を造り付け、下段は竹を挟んだ簀子棚とする。上棚の上方の一隅にさらに二重棚を吊(つ)る。柱には手拭(てぬぐい)掛けの竹釘を打つ。流しは銅板張りで排水口に連結し、白竹の簀子を置く。水屋棚の左右いずれかに物入れを設けるか、あるいは天袋をつくる。竹釘の打ち方など流儀の約束がある。勝手の設備とはいえ、水屋飾りは実に整然とした構成美を形づくっている。水屋の呼称は単に水屋棚をさしても使われている。勝手には水屋棚のほか丸炉や長炉、押入れなども設けられる。利休は「一畳半ノ勝手ハ六畳敷吉」「一畳半ノ外勝手ノ広キハ底ノヌケタル様ニテ悪」(『茶道和泉草』)と説いたという。現代の茶室では大寄(おおよせ)の茶の影響もあって広い水屋が歓迎されるようになった。
[中村昌生]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…日本でも明治時代までは,平野部の川沿いの低地では,氾濫を前提とした農耕を採用していた地域が多く,少々浸水しても大被害を受けない作物が栽培されていた。また低地の農家のなかには家屋を盛土の上に建てて高床式にしたり,あるいは水屋と称する避難部屋を住居の高所に用意するなど,さまざまなくふうをこらして氾濫に対処するのがむしろ普通であった。堤防も現在の日本のように整備されているのはむしろ例外であり,多くの国々では平野部でも無堤,もしくは自然堤防のままの所が多い。…
…寺社の参道脇や堂(社殿)前に建てられ,中に手水鉢,水盤を据える。手水舎とも書き,手水所(ちようずどころ),水盤舎(すいばんしや),水屋(みずや),水屋形(みずやかた)とも呼ぶ。ふつう四隅の柱を上方で平面中心方向へ傾斜させる,すなわち四方転び(しほうころび)の4本柱とし,四方吹放ちとする。…
…水を入れた桶をてんびん棒などで担いだり荷車に積んで飲料用の水を売り歩く商売をいう。
[日本]
日本では水屋ともいった。水道が普及する以前は,水はもっぱら井戸に頼るしかなかったが,水質の悪い所や井戸に遠い家では水を1荷いくらで水売から買った。…
…蒲(がま)や真菰(まこも),葭(よし),寒竹,萩,木賊(とくさ)などの類を用いることもある。
[水屋]
茶室には,茶の湯の準備をするための勝手,水屋(みずや)が必要で,流しと,その上に諸道具を並べる水屋棚と物入,丸炉などの装置を備えている。流しの回りの腰板や柱に竹釘を打ち,少しの隙間も無駄にしない水屋棚の整然とした構成と使い方にも,茶の湯の真価が示されている。…
※「水屋」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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