岩石に蹄(ひづめ)の跡が残っているという伝説。全国的に広く分布し、数々の由来を伴って伝えられている。乗馬の主を英雄もしくは神であったと説く点に特色がある。長野県佐久(さく)市金竜(きんりゅう)寺境内にある馬の蹄の跡は、武田信玄が川中島合戦に出陣の途中、ここに休んでつけたものといい、また、同県塩尻(しおじり)市には、木曽義仲(きそよしなか)の馬蹄石と称する石があって、蹄形のくぼみにたまった水は疣(いぼ)取りに効果があると信じられている。ほかにも、小栗(おぐり)判官、上杉謙信、源頼朝(よりとも)、義経(よしつね)、弁慶といった英雄・豪傑にまつわる馬蹄石は各地に多い。また、神の来臨跡とする例も顕著で、福岡県久留米(くるめ)市の高良(こうら)大社の参道近くにある岩のくぼみは、昔、高良山の神が神馬に乗って通ったときのしるしだという。大分県杵築(きつき)市山香町(やまがまち)には、宇佐の神が乗った神馬の蹄が残る石がある。神が馬に乗って訪れるという古くからの信仰が、馬蹄形のくぼみをもつ岩石の由来譚(たん)として結び付いたとみられる。本来、こうした特別の岩石は、影向(ようごう)石や腰掛石などの伝説にみられるごとく、神の依(よ)り憑(つ)く石としての性格をもち、神祭りの祭壇であったと推定される。のちに、神来臨の信仰の変化から、英雄の乗馬を説くようになったのであろう。
[野村純一]
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…古来の名馬には青黒色のものがあったらしく,代表的なものに池月(いけづき),磨墨(するすみ)がかぞえられる。これは《平家物語》の宇治川の先陣争いの話などから著名になったらしいが,現在でもこの種の名馬の出生地という伝説が石に残る馬蹄の跡(馬蹄石)などを証拠として語られている土地が各所にある。【千葉 徳爾】
【北アジアにおける馬】
北アジアの馬はモンゴル馬であり,体軀矮小であるが持久力があり,長距離の連続走行によく耐える。…
※「馬蹄石」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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