胎児と子宮の長軸が平行になっている縦位のうち、胎児の下向部が下半身であるものをいい、俗に「さかご」とよばれる。もっとも下降してきている先進部によって4種に分けられる。
〔1〕単臀位(でんい)(純臀位) 下肢を伸展したまま股関節(こかんせつ)を屈曲して、臀部のみが先進してくるもの。
〔2〕複臀位 あたかも「あぐら」をかいているような姿勢で、臀部と両足が同時に先進してくるもの。
〔3〕膝位(しつい) 股関節を伸展させ、膝関節を屈曲して膝部が先進してくるもので、両膝(ひざ)同時に先進してくる場合を全膝位、片膝のみ先進してくる場合を不全膝位という。
〔4〕足位 股関節も膝関節も伸展したまま足が先進してくるもので、両足同時に先進してくる場合を全足位、片足のみ先進してくる場合を不全足位という。
骨盤位は胎児が小さいときにはかなり高率でみられるが、2500グラム以上の胎児に限ってみると、その頻度は全分娩(ぶんべん)例の4%前後である。誘因としては次の四つが考えられる。(1)未熟児、形態異常、双胎など胎児の異常、(2)双角子宮、中隔子宮、子宮筋腫(きんしゅ)の合併など子宮の異常、(3)胎児の可動性が大きくなる羊水過多、子宮や腹壁の弛緩(しかん)がある場合、(4)胎児の下降が制限されるような前置胎盤や狭骨盤のある場合。
胎児の予後は一般に正常の頭位分娩に比べて不良であるが、その原因は早産で胎児の未熟性そのものが死因となることが多い。また、頭位分娩では最大の頭部が少しずつ変形しながらゆっくり骨産道内を下降する応形機能を発揮するが、骨盤位では頭部が数分で骨産道内を通過してしまうためこの応形機能が十分に発揮されず、頭蓋(とうがい)内損傷をきたしたり、娩出時の牽引(けんいん)によって頸髄(けいずい)損傷などの分娩損傷をきたすこともある。臍部(さいぶ)(へそ)まで躯幹(くかん)が娩出されてくると、臍帯(へその緒(お))が骨産道と下降してきた児頭の間で圧迫されることも、予後を悪くさせる一因となる。足位や膝位の場合は前期破水や早期破水をきたすと、臍帯が頸管や腟内に脱出して予後を悪くする。骨盤位のうちでは単臀位の場合が70~80%を占め、しかもこの予後がもっともよく、臍帯脱出の危険性も頭位分娩と変わらない。複臀位の場合も単臀位と予後はほとんど変わらない。
妊娠中に骨盤位が判明した場合は、放置して自然に頭位になるのを待つか、30~32週ころから妊婦が自分で胸壁と膝をくっつけるような体位を10~15分間とったのち横向きで寝るとか、介助者の手で腹壁上から頭位に直す外回転術を行うか、いずれかの方法で頭位になるものは頭位分娩を行う。骨盤位分娩は、陣痛といきみで娩出させる自然分娩か、胎児の肩甲上肢と児頭を介助者が牽出する部分牽出術か、最初から介助者が牽出する全牽出術が行われるが、一般には部分牽出術が多い。頭部の娩出には後続児頭鉗子(かんし)が用いられることもある。初産婦で、足位など予後の悪い胎位の場合には、最初から帝王切開が行われることもある。
[新井正夫]
妊娠・分娩時における異常胎位の一つで,胎児の頭部よりも骨盤部が下にくる場合をいう。俗に〈逆子(さかご)〉と呼ばれる。骨盤位は,妊娠第7月では30%にみられるが,しだいにその頻度は減少し,分娩時には3~4%になる。妊娠中期には羊水が比較的多く,胎児の移動が容易なために骨盤位にもなるが,末期には羊水が減少し,胎児の移動が制限されるので骨盤位の頻度も減少する。したがって早産には骨盤位が多い。その他の原因としては,多胎・奇形などの胎児の異常,子宮の奇形・腫瘍,羊水過多症,胎盤の子宮卵管角部付着,前置胎盤,狭骨盤,胎児の下肢伸展などが挙げられる。妊娠末期に胎動を腹部の下部に感ずる場合には骨盤位が疑われる。骨盤位分娩は,先進する胎児部分が臀部の臀位,足部の足位および膝部の膝位に分けられ,臀部のみの下降するのを単(純)臀位,臀部に足部が同時に下降するのを複臀位という。臀位が67%と最も多く,足位は30%にみられ,膝位は少ない。足位,膝位では,両足が先進する場合を全足位または全膝位といい,片方が先進する場合を不全足位または不全膝位という。骨盤位の分娩は,頭位分娩に比べて児の予後が不良である(児死亡7~10%)。その理由として早産,前期破水などが挙げられるが,児頭が通過する際に,胎児に酸素や栄養を運ぶ補給路である臍帯(さいたい)が児頭と産道との間に挟まれることが骨盤位分娩の本質的な問題点である。頭位では胎児の最大部分であり,しかも比較的硬い頭部が先に娩出してしまうが,骨盤位分娩では臍帯が付着する腹部が先になるため,硬い頭部と母親の骨盤の間に臍帯が挟まれてしまう。胎児の命綱である臍帯が強くかつ一定時間以上長く挟まれると児が危険になる。しかし骨盤位であっても,産道に十分な余裕があり,陣痛が良好であれば児の予後は良好になる。したがって後続する児頭よりも先進部の大きい複臀位の児の予後は良好であり,先進部の小さい足位は予後が不良である。妊娠中に頭位に矯正する試みがなされ,膝肘位,ヒマシ油投与,外回転などが妊娠第8月以後に行われるが,妊娠の進むにつれて自然に頭位になることも多いので,外回転に対する反対意見もあり,実際,胎盤の子宮卵管角部付着時には外回転も困難である。経産婦の骨盤位分娩は比較的容易で児の予後も一般に良好であるが,全足位や初産婦の骨盤位分娩では児の予後が良好でなく,とくに2500g未満の児の予後が不良であるために,帝王切開をする傾向がある。
執筆者:鈴村 正勝
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 母子衛生研究会「赤ちゃん&子育てインフォ」指導/妊娠編:中林正雄(母子愛育会総合母子保健センター所長)、子育て編:渡辺博(帝京大学医学部附属溝口病院小児科科長)妊娠・子育て用語辞典について 情報
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