六訂版 家庭医学大全科 「高血圧緊急症」の解説
高血圧緊急症(悪性高血圧)
こうけつあつきんきゅうしょう(あくせいこうけつあつ)
Hypertensive emergency (Malignant hypertension)
(循環器の病気)
どんな病気か
高血圧緊急症とは、血圧が非常に高くなり、すぐに降圧治療を開始しなければ脳、心臓、腎臓、大動脈などに重篤な障害が起こり、致命的となりうる病態です。
切迫症とは、血圧が非常に高い状態でも、とりあえず先ほど述べた重篤な臓器障害の急速な進行がない状態です。心臓または血圧の専門家のいる病院に入院して治療します。
①高血圧脳症
血圧が脳血流の自動調節の上限を持続的に超えると、脳血流が異常に増え、脳の毛細血管から
頭痛で発症し、不穏状態、
すみやかに降圧しなければ生命に危険が及びます。しかし、脳血流の自動調節能が障害されているので、降圧に伴って
②肺水腫を伴う高血圧性左心不全
血圧が著しく高いと、心肥大にみられる左心室の拡張不全のため、左心室拡張末期圧が上昇し、肺水腫を伴う左心不全に陥ることがあります。
ACE阻害薬(エナラプリル〈レニベース〉、カプトプリル〈カプトリル〉)やカルシウム拮抗薬(ニフェジピン〈アダラート〉、アムロジピン〈ノルバスク〉など)を用いて血圧を下げるとともに、利尿薬やニトログリセリンを用いて前負荷を軽減し、肺水腫の改善を図ります。
左心室の仕事量や心筋の酸素需要を減らすことが重要です。ニトログリセリンの持続静脈内注入が行われます。心不全がなければ
④褐色細胞腫クリーゼ
フェントラミン2~5㎎を血圧が落ち着くまで5分ごとに静脈注射します。これで降圧が確認されると75%の確率で本症と診断されます。頻脈に対してはβ遮断薬が有効ですが、十分量の
褐色細胞腫で高血圧性脳症や、急性左心不全、加速型高血圧悪性高血圧を示すこともあり、そのような場合にもα遮断薬を主体とした治療を行います。
⑤子癇
妊娠20週以降に初めてけいれん発作を起こし、てんかんなどのほかの病気が否定されるものです。妊娠に伴う高血圧の治療の項を参照してください。
⑥加速型高血圧悪性高血圧
以前は眼の
拡張期血圧120~130㎜Hg以上で腎機能障害が急激に進行して、放置すると全身状態が急激に増悪し、心不全や高血圧脳症、脳出血を発症して予後不良です。高血圧発症時から血圧が高いこと、降圧治療の中断、長期にわたる精神的・身体的負荷(ストレス)が悪性高血圧の発症に関係します。腎臓の組織所見は病理上
ある研究調査では生存率は本態性(ほんたいせい)高血圧に起因するものが79%、
治療には原則として経口薬を用います。急速に正常域にまで下げる必要はありません。むしろそのような降圧は重要臓器の虚血を来す危険性を伴うので避けるべきと考えられます。最初の2時間の降圧幅は、治療前血圧の25%以内、あるいは拡張期血圧110㎜Hgまでにとどめます。
カルシウム拮抗薬がよく用いられますが、ニフェジピンカプセルの舌下投与は過度の降圧や反射性
本態性高血圧に由来する例や
長谷川 浩, 秋下 雅弘
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報